チェリーちゃんの冷たい悩み
フライパンの上で「パチパチ、ジュージュー」と香ばしい音を立てるニギリ先輩。
コンロから立ち上る熱気は、夏空の陽炎のように砂浜の空気をゆらゆらと揺らしていた。
そんな熱気から一番遠い浅瀬で、ピンク色のアイス「チェリーちゃん」はプカプカと浮かびながら、寂しそうな目で見つめていた。
「いいな……ニギリ先輩は……熱い情熱があって……香ばしく焼かれて……みんなの中心になれて……」
ボソボソと呟くチェリーちゃんの頭の上では、さくらんぼが切なさそうにちょこんと揺れている。
「チェリーちゃん、どうしたの〜? そんなところで浮いてないで、こっちにおいでよ〜」
アヒル船長に乗ったパイロンくんが、のんびりと近づいてきて声をかけた。
「だめだよ……パイロンくん……私、アイスだから……コンロの近くに行ったら溶けて……ただのピンクの甘い液体になっちゃうもの……」
「そっかぁ。チェリーちゃんは『冷たさ』が命だもんねぇ」
チェリーちゃんの悩みを聞きつけたモグが、砂浜の穴から顔を出してフォークを上げた。
「大丈夫だよチェリーちゃん! 溶けて液体になったら、ボクがストローで吸ってあげるから!」
「やめて……それ全然解決してないから……」
「こらモグ! 余計なこと言わないの!」
踏み台の上のキビ丸が木べらを振って叱る。
「チェリーちゃん、寂しがらなくて大丈夫だよ。熱々の焼きおにぎりを食べた後にね、冷たくて甘いチェリーちゃんを一口食べたら……それはもう最高のお口直しなんだから!」
「えっ……? お口……直し……?」
チェリーちゃんの目がポカンと丸くなった。
「そうだよ! 主役のニギリ先輩を引き立てる、最高で最上級のデザートポジションなんだよ!」
「うむ、キビ丸の言う通りだ」
フライパンの中のニギリ先輩が、重厚な声で頷いた。
「熱いものと冷たいもの。香ばしい醤油と甘いチェリー。互いに相反するからこそ、高め合えるのだ。チェリー殿、君の冷たさは我が香ばしさを完成させるための大切なピースなのだよ」
「ニギリ先輩……!」
ニギリ先輩の熱い言葉に、チェリーちゃんは不覚にもキュンとし、危うく胸のときめきの熱で少し溶けそうになった。
「私……冷たいアイスでよかった……! ニギリ先輩が焼き上がったら、私、全力でみんなの口の中を冷やしてみせるわ……!」
「あはは、チェリーちゃんヤル気満々だねぇ」
パイロンくんが嬉しそうに笑う。
きゅうり師匠も浅瀬で静かに揺れながら、「うむ」と言いたげにチェリーちゃんに寄り添うのだった。




