穴の中のモグとフォークの野望
フライパンの真下、砂浜にぽっかりと開いた小さな穴。
そこから顔を出し、鋭い眼光(ただし目はただの点)を光らせているのは、水色のつるりとした身体を持つ「モグ」だ。
モグの手には、どこから拾ってきたのかぴかぴかに磨かれた銀色のフォークが握られている。
「モグ、お前いつまでそこに埋まってる気だ?」
ニギリ先輩が、重厚な声で下を見下ろした。コンロの熱気がじんわりと砂浜にも伝わり、穴の中はさぞかし蒸し風呂状態のはずだ。
「ボクはここを動かないよ、ニギリ先輩。だって、焼きおにぎりの一番美味しいところは『フライパンに面している接地面』だって知ってるからね」
「まあ確かに、カリカリのおこげができるのは底の部分だけどさ……」
踏み台の上のキビ丸が、呆れたように木べらをトントンと叩く。
「モグくん、キミの作戦は根本的に間違っているよ。下に穴を掘ったら、コンロの熱気が逃げちゃうじゃないか!」
「えっ、そうなの!?」
「当たり前でしょ! だからモチ太が火加減を維持するために必死でフライパンを支えてるんだよ!」
「ひぃぃぃ……! そうだよモグぅ! お前の穴のせいで熱効率が悪くて、僕の腕がもう限界突破なんだよぉぉ!」
フライパンの取っ手を握りしめたモチ太が、ぷにぷにの体を限界まで伸ばして叫んだ。
「えー、でもボク、フォークをシャキーンって構えて、下からおこげをサクッと救出したいんだもん。このフォーク、今日のために研いできたんだよ?」
「そういう問題じゃないわよ!」
キビ丸が身を乗り出す。
「だいたいね、焼き上がったニギリ先輩は、みんなで平等に分けて食べるのがポカポカ諸島のルールでしょ! 一人だけ穴からフライングゲットしようとしないで!」
「ちぇっ……ケチ」
モグはつまらなさそうにフォークの先で砂をツンツンと突いた。
すると、その拍子に穴の壁が「崩れ」を起こした。
「わっ!? 穴が……穴が埋まるー!?」
さらさらと崩れ落ちる砂。モグは慌ててフォークを振り回したが、あっという間に穴は埋まり、砂浜にはモグの頭のてっぺんだけがぽこっと飛び出た状態になってしまった。
「あはは! 自業自得だねモグくん!」
アヒルに乗ったパイロンくんが沖合から笑う。
「助けて〜……フォークが抜けなくなっちゃったよ〜……」
頭だけ出したモグが、ショボショボとした声で助けを求める。
ニギリ先輩は静かに溜息をつくと、どっしりとした声で言った。
「キビ丸、モチ太。焼き上がりの前に、まずは仲間の一救出といくか」
「はいはい、まったく世話が焼ける焼きおにぎりタイムだなあ!」
キビ丸は木べらを砂掘り用に持ち替え、モグの救出に向かうのだった。




