アヒル船長とパイロンくんの釣果
波のまにまに揺れる大きな白いアヒル。その背中にどっかりと腰を下ろしているのは、紫色の丸い身体に真っ赤な三角パイロン(カラーコーン)を被った「パイロンくん」だ。
「アヒル船長、今日もいい風が吹いているねぇ」
パイロンくんが話しかけると、アヒル船長は「ガー」と低く一声鳴き、ゆっくりと水面を旋回した。どうやら二人の意思疎通はカンペキらしい。
パイロンくんが垂らしている竹の釣竿の先には、赤い小さなウキがひとつ。そのウキは、ニギリ先輩が焼けるフライパンのすぐ近くでぷかぷかと浮かんでいた。
「ちょっとパイロンくん! 釣り糸近すぎるよ! フライパンに引っかかったらどうするのさ!」
踏み台の上のキビ丸が木べらを振り回して注意する。
「大丈夫だよキビ丸くん。ボクが狙っているのは海のお魚じゃないんだから」
「えっ、魚じゃなかったら何を釣ろうとしてるのスか……?」
取っ手を支えてプルプル震えているモチ太が、不安そうに尋ねる。
パイロンくんは帽子のパイロンをくいっと持ち上げ、得意げに微笑んだ。
「ボクが狙っているのはね……フライパンからこぼれ落ちる『焼きおにぎりの香ばしいおこげ』だよ!」
「食い意地がすごい!!」
「しかもそれ、釣りじゃなくて横取りだよ!」
キビ丸とモチ太のツッコミが浜辺に響き渡る。
穴の中のモグが、手に持ったフォークをシャキーンと構えて身を乗り出した。
「ずるいぞパイロンくん! おこげは下から狙っているボクのものだ! 横から糸垂らして横取りなんて許さないぞ!」
「あはは、モグくんは穴から出てこられないでしょ〜。ボクにはアヒル船長という機動力があるのだよ」
「ガー!」
と誇らしげに鳴くアヒル船長。
その時、ウキが「ピクッ」と沈んだ。
「あっ! かかった!」
パイロンくんが勢いよく竹竿を繰り上げる。たわむ糸、飛び散る水しぶき。
砂浜のみんなが「おおっ!?」と固唾をのんで見守る中、針の先に引っかかって上がってきたのは——
「……チェリーちゃんのさくらんぼ!?」
「あ……私のアイデンティティが……」
浅瀬で冷えていたチェリーちゃんが、頭の上のさくらんぼを釣られて呆然としている。
「ごめんねチェリーちゃん! おこげと間違えて引っ掛けちゃった!」
「返して……それがないと、私ただのピンクの冷たい固まりになっちゃうから……」
アヒル船長が器用に旋回し、釣れたさくらんぼをチェリーちゃんの頭の上に「ぽん」と戻してあげた。
チェリーちゃんは少し照れながら、
「ありがとう……アヒル船長……」
と呟いた。
「まったく、紛らわしい釣りをしないでよ!」
キビ丸が呆れながらニギリ先輩のひっくり返し作業に戻る。
パイロンくんは「てへっ」と頭のパイロンを撫でながら、またのんびりとアヒル船長とともに浅瀬へと消えていくのだった。




