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退魔士エリ

 松明の炎がパチパチとはぜ、三人の影を湿った石壁に長く引き伸ばす。エリ、ナイトホーク、そしてオーエンは、気の遠くなるほど長い階段をひたすら下りていった。


 いくつもの重厚な扉を開け放ち、たどり着いたのは最下層の広間だった。

 その中央には、古びた石の棺がひとつ。

 城の入り口で感じた禍々しい「気」は、間違いなくこの棺から、毒霧のように溢れ出していた。


 エリが恐る恐る棺の中を覗き込むと、そこには一体の穢れ無き姿のなにものかが静かに横たわっていた。


「……この子が、建国の勇者に封じられた『魔』なの?」


 あまりにも無垢に見えるその姿に、エリが戸惑いの声を漏らす。すると、背後からオーエンが静かに、だが厳しく戒めた。


「エリ様、形に惑わされてはいけません。魔なるものに決まった形はないのです。それは人の心を惑わすための仮初めの姿に過ぎません」

「とにかく、この棺に封印を施せばいいのね。やったことはないけれど……」


 エリが腕をまくろうとすると、ナイトホークがその肩を叩いた。


「今のエリの力を以てすれば封印などという微温い(ぬるい)処置ではなく、この魔を消滅させることも可能だろう」

「……そうね、その方がいいわ。また数百年後に封印が弱まったからって、呼び出されるのは御免だもの」


 エリは迷いを捨てた。

 効率と、後の手間を考えれば、答えはひとつだ。


「魔よ、滅せよ」


 エリが右手を高く掲げ、棺に向けて一気に振り下ろす。

 刹那、彼女の指先から溢れ出した金色の光束が、うねりを上げて棺を飲み込んだ。


 光の触手は棺に横たわる魔の体を優しく、かつ無慈悲に絡め取っていく。

 魔の本体が内側から崩れ落ちるように光の中に溶けていくのと同時に、広間には地鳴りのような魔の慟哭が響き渡った。

「神よ、私が何をしたというのだ。ただ静かに久遠の時を過ごしていただけなのに」と魔なる者の思念がエリの中に怒涛の如く流れ込んできた。

「エリよ魔に惑わされてはいけない」と察したオーエンが脇で叫ぶ


「――――ッ!!」


 耳を裂くような断末魔の叫び。しかし、それも数秒のことだった。

 光が収まると、そこにはただ、空っぽの石棺と、耳が痛くなるほどの静寂だけが残されていた。


「……エリ、終わったようだな」


 ナイトホークが腰の剣から手を離し、短く息を吐いた。


「まあ、でもあの子成仏してくれたかしら」

「ジョーブツ……?」


 聞き慣れない言葉にオーエンが首を傾げる。


「いいの、独り言よ。気にしないで」


 エリは手元の埃を払うようにパッパと手を振ると、出口に向かって歩き出した。


「さあ、さっさと地上に戻りましょう。地下は空気が悪くて肌が荒れそうだわ」


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