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女神エリ

 王宮での激務を終え、神殿へと続く帰路。

 夕闇が迫る中、隣を歩くナイトホークがふと足を止め、真剣な眼差しをエリに向けた。


「エリ、今日もすさまじい神力を使ったな。……自覚はあるか? お前が今、神へと至る道を歩んでいることに」


 その問いに、エリは疲れを隠そうともせず、吐き捨てるように返した。


「必要に迫られて使っているだけよ。神様になんてなる気は、これっぽっちもないわ」

「……そうか。ならいい」


 ナイトホークは短く答え、再び歩き出した。その横顔には、どこか安堵したような、それでいて複雑な陰が落ちていた。


 直後、エリの脳内に鈴を転がすような、それでいて抗いがたい威厳を持った声が響く。


『エリ、神力がずいぶん増えたわね』


 駄女神、ミリエルだ。


『私が与えた神力が絶えることがないようで何よりだわ。いい? 今のその力は、もはや私から与えられたものではなく、あなた自身のものになったということ。だから、もう尽きる心配をする必要はないわ』


(だからと言って、あなたの言う通りにはならないわよ、ミリエル)


 エリが心の中で鋭く反論すると、ミリエルはくすくすと楽しげに笑った。


『ええ、それでいいわ。これから先は、あなたが決めることだもの』


 神殿の巨大な門をくぐった瞬間、エリは空気の変化を肌で感じた。

 王宮の地下に巣食う強大な魔を滅したという知らせは、すでに神殿中に広まっていた。だが、戻ってきた彼女を迎える視線は、これまでのような「有能な神官」に向けるものではなかった。


 それは、畏怖と熱狂が混ざり合った、絶対的な存在への眼差し。

 出迎えた高位神官、カルミナの様子も明らかにおかしい。


「どうしたの? カルミナ。そんなに畏まって」

「……エリ様。先ほど、神託がございました」


 カルミナは深く頭を垂れ、震える声で続けた。


「『エリは退魔の儀を経て神に至った』と。今後は、貴女様を神としてお迎えし、お仕えすることになります」


 あまりの急展開に、エリは顔をしかめた。


「嫌よ。いつも通りに接してちょうだい」

「……それは、神託でしょうか?」

「えっ?」


 カルミナが顔を上げ、すがるような、敬虔な瞳でエリを見つめる。


「神の言葉は、我ら信徒にとってはすべてが神託。貴女様が『いつも通りにしろ』と命じられるのであれば、我らはそれを神の教えとして守るまでです」


「…………」


 何を言っても、結局は崇拝の対象にされてしまう。

 エリは天を仰ぎ、重いため息をついた。


「みんなどうしても、私を神様にしたいのね……」


 彼女の願いとは裏腹に、世界はエリを人間として留めておくつもりはないようだった。


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