一方通行の道
「オーエン、ナイトホーク。……私、本当に神様になってしまったの?」
神殿の一角、静寂に包まれた回廊でエリは絞り出すように声を漏らした。
隣に立つナイトホークは、その鋭い眼差しを伏せることなく、冷徹なまでの事実を告げる。
「……まだ、完全な神ではないだろう。だが、もはやただの人間でもない。お前はすでに『人外』の領域に足を踏み入れている」
ナイトホークの言葉は、エリの胸に重くのしかかった。
「神力の使い過ぎだ。だが、今さら力を使うのを止めたところで、もう元の人間の器に戻ることはないだろうな」
その残酷な宣告を補うように、オーエンがどこか遠くを見るような、慈しみに満ちた面差しで口を開く。
「……湖の畔、女神の聖域でエリ様をお迎えしたのが、つい昨日のことのようです。あの瑞々しい少女が、これほどまでに尊き存在になられるとは」
オーエンは静かに膝を突き、深々と頭を垂れた。
「女神エリよ。かつて貴女様に聖域から出るよう命じた我が不明、今ここで恥じるばかりにございます」
「……ちょっと、そういうことじゃないって言ってるじゃない!」
必死に否定するエリだったが、忠誠を誓う彼らの瞳に宿る熱は、もはや彼女を人間として見てはいなかった。
絶望感に似た孤独がエリを襲ったその時。脳内に、あの逃れられぬ神の響きが降ってきた。
『エリ』
(ミリエル! ちょうど良かったわ。みんなが私を神様扱いするの、なんとかしてよ!)
エリが救いを求めるように叫ぶが、ミリエルの返答はいつになく厳かなものだった。
『エリ。それは難しい相談だわ。……これは、あなたが自分で選んだ道なのだから』
(私が選んだ……?)
『そう。目の前の困難を救おうと、あなたは自らの意志で神力を行使し続けた。これはその積み重ねの結果。これからも、あなたは自分の足で歩み続けなければならない。……決して後戻りのできない、神へと至る道をね』
慈愛に満ちているようでいて、断罪のようにも響くミリエルの声。
目の前で跪く守護者たちと、逃れられない神への歩み。
エリは、自分がもはや引き返せないほど遠い場所まで来てしまったことを、突きつけられた現実として受け入れるしかなかった。




