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王の訪問

「フレデリック陛下がお見えになりました。エリ様に目通りを求めておられます」


 カルミナが告げたその言葉に、エリは思わず耳を疑った。


「王様が……私に会いたいって?」

「はい。いかがいたしましょうか」

「もちろん会うわよ。断る理由なんてないわ」


 返事をしながらも、エリは喉の奥に冷たい違和感を覚えた。

 王が、一介の神官である私に会いに「来る」。本来なら私が王宮へ召喚されるのが道理だ。立場の逆転――それが、今の私の立ち位置を何よりも雄弁に物語っていた。


 応接間に現れたフレデリック王は、一国の主としての威厳はそのままに、どこか恭しい態度でエリに向き合った。


「陛下、わざわざ足を運んでいただけるなんて光栄です」

「いや、エリ様。今は神格を得られた御身……私が訪ねるのは当然のことです」


「陛下まで。私に神格があるなんて、一体どなたが言い出したのですか?」


 エリが半ば呆れて問い返すと、陛下は意外そうに眉を上げた。


「……もちろん、女神ミリエル様でございますよ。『エリは私よりも高貴な神格を得て、神の座についた』と」


(あの神様、出鱈目ばっかり……!)


 心中でミリエルに毒づくエリをよそに、陛下は深く頭を下げた。


「それに、この度は王宮地下の魔を滅していただき、誠にありがとうございました」

「いえ……あれは信者の皆様の願いに応えたまでで、当然の務めですから」


「その謙虚さこそが尊い。……さて、本日はあの『魔』について、王家に伝わる古い伝承をお伝えしようと思い、やって参りました」


「伝承、ですか?」


 エリが身を乗り出すと、陛下は声を低めて語り始めた。


「エリ様は、魔界の接近に遭遇されましたよね。実は王宮地下の魔が、魔界を呼び寄せているという言い伝えがあるのです。あの魔の結界が弱まった時に、魔界がこの世に接近するというものですな」


「……今回は、魔界の接近の方が結界が弱まるより早かったようでしたね。私が見るに、単に似たような周期で結界が弱まったり、魔界が近づいたりするだけではないかと思うのですが」


 エリが冷静に分析を述べると、陛下は我が意を得たりとばかりに深く頷いた。


「エリ様がそう言われるのであれば、それが正しいのでしょうな」


 あまりに全肯定なその態度に、エリは居心地の悪さを隠せない。陛下は穏やかな笑みを浮かべて言葉を繋いだ。


「いずれにしても、魔の根源を完全に滅していただいたのです。これでもう二度と魔界は近づいてこないだろう……。そう確信してお礼を申し上げたかったのですよ」


 陛下の言葉は安堵に満ちていたが、エリの胸には別の予感が過っていた。魔を滅したことで得たこの「神格」という名の鎖が、自分をさらに人間から遠ざけていくような、そんな予感だ。


「……そうだといいのですが」


 エリは窓の外、青く澄み渡る空を、どこか遠い目で見つめるしかなかった。


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