表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/42

奇跡のインフレと駄女神の囁き

 主席神官カルミナは、執務室の椅子に深く腰掛け、眉間を指で揉みほぐしていた。その視線の先には、どこ吹く風といった様子で茶を啜るエリがいる。


「エリ、あなた……少し神力の行使が過ぎるのではないかしら?」


 カルミナの静かな、だが重みのある問いかけに、エリはカップを置いて小首を傾げた。


「心外ですね。信者の願いを叶えろとおっしゃったのは、他ならぬカルミナ様ではありませんか」


「それはそうだけれど、限度というものがあるわ。奇跡が尊ばれるのは、それが稀にしか起きないからなのよ。あなたが動けば動くほど、世の中は『奇跡のインフレ状態』に陥って、却って神殿のありがたみが薄れてしまう」


 カルミナの懸念はもっともだった。つい先刻も、行方不明の子供を「強制帰還」させたばかりである。


「出し惜しみするのは正しくないのでは? 救える力があるなら、使うべきでしょう」


 エリが淡々と正論を口にすると、カルミナはさらに深い溜息を吐き出した。


「いい? 奇跡は起きないからこそ奇跡なの。日常的に起こることは、それはもはや単なる『現象』よ。今のままでは、早晩この界隈では『エリ現象』なんて呼ばれるようになるわ。そんなの、神秘性も何もないじゃない」

 神殿のブランド価値を守りたい経営者としてのカルミナと、効率重視の現代人であるエリの意見は、平行線を辿る。


『エリ、気にすることないわ! 神力なんて使ってなんぼよ。カルミナの言うことなんか聞かなくていいわ!』


 その時、エリの脳内に直接、無責任極まりない女神ミリエルの声が響いた。

(ミリエル……あなたのそういう囁き、神様っていうより悪魔の誘惑に聞こえるわよ。つまり、もっと自重しろってことね)


 エリは心中で「駄女神」を切り捨てると、カルミナに向き直った。


「分かりました。少しは手加減します。……『奇跡』じゃなくて、もっと『科学的』というか『物理的』な解決策を模索してみます」

「……その言葉が、一番嫌な予感しかしないのだけれど」

 カルミナの不安を余所に、エリは次の「お仕事」に向けて、脳内の兵器カタログをめくり始めるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ