失せもの探しは、全方位型アクティブ・レーダーで
「私の息子の姿が見えなくなったのです。女神様の導きを与えてください!」
静かな神殿に、血相を変えた母親らしき女性が飛び込んできた。その悲痛な叫びに、エリはすぐさま駆け寄って彼女の肩を抱いた。
「お母さん、落ち着いて。大丈夫よ。まずは、いなくなったお子さんのことを教えてくれるかしら」
エリの穏やかな、だが自信に満ちた声に、女性は震える声で状況を話し始めた。
「はい……息子は11歳になったばかりで。今朝、父親と一緒に市場に出掛けたのですが、父親がほんの少し目を離した隙に、どこかへ居なくなってしまって……!」
「お父さんは、今どうされているのですか?」
「それが……自分のせいで息子がいなくなったと落ち込んで、帰って来てからずっとお酒を飲んでいるんです! 本当に、いざという時に役立たずで……!」
女性が悔しさに唇を噛む。その様子に、エリは心の中で「どこの世界も男ってやつは……」と呆れつつも、不敵な笑みを浮かべた。
「そう。それは災難だったわね。でも安心して。私は『失せもの探し』が得意なの。すぐに息子さんを見つけ出して、あなたの元へ返してあげるわ」
エリはゆっくりと立ち上がると、神殿の中央へと歩み出た。居合わせた信者たちが、固唾をのんで「聖女」の挙動を見守る。
エリは右手を高く、天に向かって真っ直ぐに差し伸べた。脳内では、かつて軍事雑誌で読み込んだ「全方位型アクティブ・フェーズドアレイ・レーダー」の概念を神力で再構築する。
(——ターゲット捕捉。半径5キロ以内、11歳、男性。神力による強制帰還プロトコル、実行!)
「姿を消したこの母の子よ。今すぐ、母のもとへ戻りなさい!」
凛とした命令が神殿の空気を震わせた、その直後だった。
「——おかあさん!」
神殿の入口から、一人の少年が弾かれたように飛び込んできた。彼は一直線に母親のもとへ駆け込むと、その足にしがみついて泣き出した。
「おかあさん、ごめんなさい! 市場でお父さんとはぐれてしまって困っていたら急に体が勝手に動いて、ここまで走ってきちゃったんだ!」
母親もまた、息子を力いっぱい抱きしめて「ああ、無事でよかった……!」と涙を流す。
その光景を目の当たりにした信者たちは、一斉にざわめき、やがて地鳴りのような歓声へと変わった。
「おお……なんという奇跡だ!」
「聖女様が手を挙げた瞬間に、子供が戻ってきたぞ!」
誰しもが「女神の奇跡」の目撃者となった瞬間だった。だが、エリだけは一人、内心で毒づいていた。
(……やれやれ。本当なら無人偵察機でも飛ばして座標を特定するつもりだったけど、めんどくさいから神力のゴリ押しで『自動帰還』させちゃったわ。ま、結果オーライね)
聖女の微笑みを貼り付けたエリの背後で、一部始終を見ていたオーエンだけが「今、あの子の足、地面に付いてない時間ありませんでした……?」と戦慄していたが、再会の歓喜にかき消されるのだった。




