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聖水(?)の秘密と、失われた味の再現

(……私としたことが失敗したわ。神力が使えるんなら、現代社会から肉の軟化酵素でも召喚して肉を柔らかくすればよかった……)


 エリは、顎の疲れをさすりながら遠い目をした。

 結局、火炎放射器という超火力で焼き上げたギガラビットの肉は、表面こそ香ばしいものの、その本質は鋼鉄のように硬いままだったのだ 。

 その横では、人型から黒竜の姿に戻ったナイトホークが、バキバキと凄まじい音を立てて肉の塊を咀嚼している。

 硬さに音を上げている人間たちを尻目に、彼は満足そうに全ての肉を平らげてしまった 。


「ふむ、なかなかの美味であったぞ」


 ドラゴンの強靭な顎には、鋼鉄の肉も程よい歯ごたえだったらしい 。


「さあ、いつまでも遊んでいないで、次の願いを叶えてあげて」

 空になった皿を片付ける間もなく、主席神官カルミナが新しい羊皮紙を広げてやってきた。


「次のリクエストね。『最近、神殿の聖水の味が薄いというか、効き目が弱い気がします。昔のような、よく効く美味しい聖水に戻してください』……って、これただのクレームじゃないの?」


 エリは眉をひそめて羊皮紙を覗き込んだ。「そもそも、聖水って何なんです?」


「この神殿では、信者の方々に聖なる泉の水を振る舞っているのよ。その水は舌触りが柔らかくて、ほのかな甘みを感じると言われていてね。ちょっとした病気くらいなら治ってしまうという代物なのよ」


 カルミナの説明を聞き、エリは納得したように頷く。「それが最近『薄い』って言われてるんですね。……それって、担当になったミリエルの神力が弱いせいなんじゃ……?」


『失礼ね! 私のせいではないぞ!』


 脳内に直接、あの傲慢な女神の声が響き渡った 。「あっ、ミリエル、聞いてたの?」

『悪口はよく聞こえるからな。……いい、前の主席神官は聖泉の水に“味付け”して振る舞っていたようだから、信者はそのことを言っているのだろう』

「……なんだ。ただの誤魔化しじゃない」

 エリが呆れた声を出すと、カルミナも否定せずに深く頷いた。「神殿だって商売だもの。多少の演出は必要よ」

「「というわけで、エリ、よろしくね」」

 ミリエルとカルミナの声が、見事なユニゾンでエリに命じる 。


 要するに、聖泉の水を美味しく味付けすればいいわけだ。

「さすがに最新兵器じゃどうにもならないわね。……ええい、召喚! 『健康に良さそうな、ほのかに甘い清涼飲料の素』!」


 エリが神力を込めて虚空を掴むと、淡い光と共に巨大な紙袋がドサリと足元に現れた 。そこには、無機質な太文字でこう記されていた。


【業務用:清涼飲料水の素 20kg】


「……これ、某スポーツドリンクの粉末じゃない。しかも粉塵爆発でも起きそうな量ね」

 見た目は完全にただの化学製品だが、エリは不敵な笑みを浮かべた。武器の召喚ではないが、ある意味では信者の不満を「一掃」する、現代知識の結晶である。


「いいわ。これを使って、神殿の評価を爆上げしてあげる!」


 聖ミルトス神殿の聖水が、突如として「イオンの力で素早く吸収される」ハイテク飲料へと変貌を遂げようとしていた 。


 紙袋の中身を聖泉にぶちまけてよく混ぜるとオーエンには泉の水がかすかに光っているように感じた。


 次の礼拝の時に聖水を振る舞われた信者はなぜか全員笑顔で帰っていった。


「今日の信者は聖水をいただいて皆満足そうでお布施も随分大目に包んでいったみたい」とご満悦なカルミナだった。


 エリはその様子を見ていて複雑な気持ちだった。


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