ギガラビットの肉は、ナパームの香りと共に
「……ねぇ。農家の人から貰ったこの馬鹿でかいウサギ、どうすればいいのかしら」
エリは神殿の裏庭に積み上げられた「ギガラビット」の山を見上げ、心底困ったように頬をかいた。
大型犬サイズの巨体がこれだけ並ぶと、もはや害獣というよりはシュールな現代アートのようである。
「オーエン殿に聞いてみよう。賢者なら、何か有効な利用法ぐらい知っておろう」 隣に立つナイトホークが、人型の姿で腕を組みながら助言した。
「オーエン、ちょっといい? この、このでかいウサギ、何かに使えないかしら」 呼び出されたオーエンは、山積みの死骸を見て露骨に顔を引き攣らせた。
「エリ、どうしたんですか……こんなに大量のギガラビットを……」
「カルミナの指示で討伐してきたの。農家の人が『報酬だ』って言って持たせてくれたんだけど、正直、持て余しちゃって」
オーエンは眼鏡のブリッジを押し上げ、学術的な視線で巨体を見定めた。
「なるほど。ギガラビットの毛皮は防寒性に優れ、市場では珍重されます。ですが――肉の方は、繊維が鋼鉄のように硬すぎて、まず食用にはされませんね」
「えっ、食べられないの? じゃあ、せめてオーエン、これの皮を剥いでおいてくれる? 賢者様なら、解体くらいお手の物でしょ」
「……そういうことならやりますが、それこそ農家の方に頼んだ方が、よっぽど早くて綺麗に剥いてくれたと思いますよ」 オーエンは溜息をつきながらも、ナイフを取り出し作業に取り掛かった。その様子を見届けることもなく、エリは大きく伸びをする。
「じゃ、よろしくね。私、慣れない狙撃で疲れちゃったから、一休みしてくるわ」
数時間後。エリが再び裏庭へ戻ると、そこには見事な毛皮の束と、それ以外……つまり大量の「肉の塊」が整然と分けられていた。
「はい、エリ。指示通り毛皮を剥ぎ、肉も一応、処理だけはしておきました」
そこへ、主席神官カルミナが、長い裾を引きずりながら現れた。
「エリ、その毛皮は神殿に寄進なさい。それだけの数があれば、商人に売って結構な額になるわ。その売上から、あなたへの討伐報酬を出してあげる」 カルミナは事務的に言い放つと、残された肉の山を冷ややかな目で一瞥した。
「肉は食用にならないんだから、ナイトホーク、あなたがブレスで焼却処分しておきなさい」
「断る。儂の誇り高き黒竜のブレスを、ゴミの焼却ごときに使うなど、出来ぬ相談よ」
ナイトホークは不愉快そうに鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「何で?そこまでして食べられないのよ。見た目は普通に美味しそうなのに」エリの素朴な疑問に、後始末でヘトヘトになったオーエンが、力なく首を振った。
「……物理的な強度の問題ですよ、エリ。ナイフが通らないほど硬いんです。普通の調理法じゃ、一生火が通りませんよ」
その言葉を聞いた瞬間、エリの脳裏に、かつて銀幕で見た戦場の光景がフラッシュバックした。「……普通の調理法じゃ、ね。なら、普通じゃない火力を使えばいいだけの話じゃない」エリの瞳に、狙撃時と同じ——あるいはそれ以上に物騒な「ミリオタ」の光が宿った。
「オーエン、ナイトホーク。準備しなさい。神殿の裏庭で、最高のBBQを始めるわよ」
「エリ、嫌な予感しかしません! 今すぐその不敵な笑みをやめてください!」
絶叫するオーエンを無視して、エリは神力を練り始めた。ターゲットは「鋼鉄の肉」。召喚するのは、もちろん包丁でもフライパンでもない。
「M2火炎放射器召喚。」
「この火炎放射器はねアメリカ軍が20世紀の戦争で使っていたのよ。ああ、このナパームの香りは、勝利の味よ……!」聖ミルトス神殿に、ゴォォォォ!という凄まじい火炎の音が響き渡るのは、数分後のことである。
次回投稿は5月7日の朝7時になります。




