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聖女の狙撃(スナイプ)

「まず最初のリクエストは……じゃなくて『信者の願い』はですね。えーと、『私の畑が害獣に荒らされて困っています。女神様の力で討伐してください』とのことです!」


 主席神官のカルミナが、仰々しく羊皮紙を読み上げた。

 それを聞いた“女神”エリは、人差し指を顎に当てて小首をかしげる。


「害獣ねぇ……。手っ取り早く畑ごと焼き払うなら簡単だけど、それじゃ意味ないわよね?」

「――まずは現地で現状を確認する。何事も現地調査が先決だ」


 不意に背後から響いた低い声。いつの間にか人型に姿を変えた黒竜のナイトホークが、腕を組んで立っていた。

 次の瞬間、視界がぐにゃりと歪む。

 まばたきをした時には、エリとナイトホークは瑞々しい緑が広がる畑のど真ん中に立っていた。


「ちょっと、ナイトホーク! あなた、いつの間にこんな転移魔法なんて使えるようになったのよ」

「カルミナ殿に伝授してもらったのだ。隠密活動には重宝する。これなら敵に捕まっても即座に離脱できるからな」

「……捕まること前提なのが、なんともあなたらしいわね」


 エリは呆れたように溜息をついたが、ナイトホークは気に留める様子もなく、鋭い眼光で周囲を索敵し始めた。


「この畑では、ウサギとネズミの中間ほどの大きさの害獣が、作物の根を食い荒らすらしい。収穫直前で台無しにされる農民の怒りは相当なものだ」

「詳しいわね。もしかして、事前に調べてたの?」

「いや、実は先にカルミナ殿から討伐依頼を受けていたのだが……儂のブレスでは畑そのものが消滅してしまうのでな。扱いに困っていたのだ」

「ああ……なるほど。納得だわ」


 脳筋な黒竜の悩みを知り、エリが苦笑していると、ナイトホークが一点を指さした。


「見ろ、あそこにいるのが例の害獣だ」

「えっ、ちょっと待ちなさいよ。ウサギとネズミの中間って言わなかった? あれ、どう見ても大型犬サイズじゃない!」

「ふむ? この世界の基準では、あれがウサギとネズミの中間サイズだが……」

「……忘れてたわ。ここ、異世界だったわね」


 エリはこめかみを押さえた。常識が通用しないのがこの世界の常だ。


「それで、頭数は?」

「農家の話では、十数頭といったところか」

「……なら、やることは一つね。近接戦闘で畑を荒らすわけにいかないし――狙撃一択だわ」


 エリが虚空に手をかざすと、淡い光とともに重厚な鉄の塊が具現化した。

「召喚――狙撃用M16アサルトライフル、ゴルゴ13カスタム」


 鈍い黒光りを放つ銃身を慣れた手つきで構え、スコープを覗き込む。


「ターゲットまでの距離、約100メートル。風は微風。……絶好の狙撃日和ね」


 引き金にかかった指に、わずかに力がこもる。


 ――ぱぁーん!


 乾いた銃声が、のどかな田園地帯に不釣り合いな音色で響き渡った。

 はるか彼方、作物を貪っていた「大型犬サイズ」の害獣が、声を上げる間もなくその場に崩れ落ちる。


「まずは一匹。……さあ、害獣駆除パーティーの始まりよ」


 聖女(女神)の微笑みとともに、静かな虐殺が幕を開けた。


「エリ、それはまた新しい武器だな」


「うん、こっちの方が手になじんでいるというか、ゴルゴ13ファンの私にとってはふさわしい武器なのよ」


「オーエン殿がまた悲しみそうだな」


「さあ、ナイトホーク、次のターゲットはどこ」

「あそこにいるぞ」

「了解、スコープに捕らえたわ。」

 パーン

「命中」

 十数頭の駆除作業は三時間弱で終了し、獲物をまとめて依頼者の農家の前へもっていくと

「女神様、ありがとうございました。こいつらがわしらの畑を荒らしまわっていたので神殿への供物が捧げられそうもなかったのです。これで神殿への供物の心配をしなくて済みそうです」


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