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女神の置き土産と、呆れ顔の主席神官

 静寂に包まれていたはずの神殿に、場違いなほどの神気オーラが立ち込めていた。

 その異変をいち早く察知した主席神官、カルミナが、長い裾を翻して駆け込んできた。彼女は広間に佇むエリを認めると、眉間に深い皺を寄せて問い詰める。


「エリ、あなた……また何かやったの?」


「ひどいなぁ、カルミナ様。私は何もしていませんよ。ただ、女神ミリエル様がこの神殿にちょっと降臨されただけです」


 エリが心外だと言わんばかりに両手を広げて見せると、カルミナは天を仰いで深い溜め息を吐いた。


「『だけ』って……そんな次元の話じゃないわ。戦神のミリエル様が降臨されたということは、近いうちに必ず何かしらの厄介事が起こるっていう前触れなのよ」


「えっ? ミリエル様って、そんなにトラブルメーカーなんですか?」


 あまりに純粋な問いかけに、カルミナは呆れを通り越して憐れみすら含んだ視線をエリに向けた。


「あなた……自分が一番の彼女の被害者だって自覚、本当にないの? 被害の渦中に居すぎて、感覚が麻痺しているとしか思えないわ」


「……。そういえば、そうですね。思い当たる節がありすぎます」


 ようやく自分の境遇を再確認したエリが苦笑いすると、カルミナは気を取り直したように、探るような声で本題を切り出した。


「それで、ミリエル様は何て仰ったの?」


「ええと……『信者の願いを叶えるのがエリの仕事だ』って。だから『もっと神力チカラを使え』と、半ば強引に言われました」


 その言葉を聞いた瞬間、カルミナの瞳に怪しい光が宿った。


「そう……。神力を使っていいと、女神様直々にお許しが出たのね?」


 カルミナは口元に、どこか肉食獣を思わせる笑みを浮かべる。


「それなら話は早いわ。あなたに解決してもらいたい信者の願いなら、山ほど溜まっているのよ。それこそ、あの腕利きの傭兵『ナイトホーク』でさえ匙を投げたような難題がね」


「え、ちょっと、カルミナ様? 目が笑ってないんですけど……」

 エリは内心恐怖に慄いた。

 そして、エリの予感は的中した。女神の降臨によってもたらされたのは、安寧ではなく、さらに過酷な「お仕事」の始まりだったのである。


明日29日は投稿をお休みします。第3話は30日朝7時投稿です。

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