魂の邂逅、双子の片割れ
窓から差し込む午後の陽光が、エリの睫毛に金色の縁取りを作っていた。静寂が満ちる室内で、不意にミリエルの声が、いつもより低く、柔らかな温度を伴って響いた。
『エリ、リラックスしている今なら話しやすいから話すわね』
「……何?」
その気配を敏感に察したオーエンとナイトホークは、互いに目配せをすると、エリの安らぎを邪魔せぬよう音もなく部屋を辞した。主と女神、二人の聖域を侵さぬための、彼らなりの敬意だった。
『なぜ、あなたをこの世界に連れて来たのか。その真実を話すときが来たわ』
ミリエルの言葉に含まれたただならぬ響きに、エリは身を起こし、見えない彼女の瞳を探すように視線を彷徨わせた。「私が聞いてしまってもいいことなの?」
『ミリシアの為にも、聞いて欲しい。……エリ、あなたは女の子なのに、どうしてこれほどまで武器や兵器に心惹かれるのか、自分でおかしいと思ったことはなかった?』
「別に……。家にあった愛読書の『ゴルゴ13』の影響かな、なんて思っていたけれど」
『普通の女の子はね、家にそれがあっても、わざわざ手に取って読み耽ったりしないものよ』
ミリエルの少しだけ呆れたような、けれど愛おしむような指摘に、エリは「……そうかもね」と小さく苦笑した。確かに、自分の興味関心は、女子高生としてはあまりに「戦」に寄りすぎていた。
『私の双子の妹ミリシアが世界から消失した時……その魂の欠片が、元の世界で生まれたばかりのあなたの魂とかすかに触れ合ったの。その刹那、二つの魂は溶け合って一つになった……』
「えっ……。どういう、こと?」
心臓の鼓動が、トクン、と大きく波打つ。
『あなたは生まれながらに、戦神ミリシアの一部をその魂に内包する存在になったのよ』
「そうだったのね……」
腑に落ちる感覚があった。なぜ自分が、見たこともない最新兵器をあそこまで鮮明に「イメージ」できるのか。なぜ神々の威圧に屈することなく、凛として立っていられるのか。そのすべての答えが、自分の中にある「欠片」だったのだ。
『この世界に来てすぐ、寝ている間に鑑定を受けさせられたでしょう? その後で「神を鑑定するとはけしからん」という神託が下ったことも……』
「……ええ。オーエンから聞いたわ。ミリシアの魂を宿していたのなら、あの鑑定結果も当然だったというわけね」
『そういうことよ』
沈黙が流れる。エリは自分の胸にそっと手を当てた。そこにある鼓動は、確かに自分自身のものだ。
「ミリエル。私とミリシアに浅からぬ縁があるのは分かったわ。けれど、私の中に彼女の記憶も意志も感じられない。私は私なの。そこだけは忘れないで。私は、あなたの妹の代わりにはなれないわ」
その言葉は、拒絶ではなく、自立の宣言だった。ミリエルは、どこか救われたような、震える声で応じた。
『分かっているわ。でも……姉としての私の我儘で、あなたをこの世界に引き寄せてしまったのは確かよ。そのことは、あなたに詫びなければいけないと、ずっと胸を痛めていたの』
謝罪の言葉と共に、部屋を抜ける風が、エリの頬を優しく撫でた。
「……もういいわ、ミリエル。私にとっては、この世界がもう、かけがえのない故郷になってしまったんだから」
エリの瞳には、湿っぽさなど微塵もなかった。彼女はミリシアの影を背負いながらも、自分自身の意志で、この新しい世界を歩んでいく決意を固めていた。




