光の神と太陽の女神
セレブリオの地を覆う、重苦しい戦乱の気配。反政府勢力とアルセリアが衝突を繰り返すその裏には、単なる領土争いでは片付けられない「火種」が燻っていた。根本的な解決なしに一時的な停戦を強いたところで、内部に溜まった不満の圧力はいずれ爆発するだろう。
「オーエン、セレブリオになぜ反政府勢力がいるのか、あなた知っているかしら?」
エリの問いに、オーエンは沈痛な面持ちで頷いた。
「エリ、それは根深い宗教上の対立があるんだ。セレブリオ政府の主流派は、アルセリアと同じ多神教の神々を信仰している。だが、反政府勢力と一部の住民は、唯一神『ソラディオ』という光の神を信じているのさ」
「宗教絡み……。元いた世界でも、神の名を借りた争いは終わりが見えなかったわ」
エリは眉をひそめ、深刻な表情を浮かべる。対話の糸口を掴むため、彼女は決然と言い放った。
「私、反政府勢力の話を聞いてくるわ」
「エリ、それは危険すぎる!」
即座に制止の声を上げたのはナイトホークだった。しかし、エリは静かに首を振る。
「神である私が、そう簡単に命を取られることはないでしょ? 一番安全なはずよ」
「……たとえ死なずとも、器であるその体を奪われれば、今のように我々と語らうことはできなくなる。それでもいいのか?」
ナイトホークの鋭い指摘に、エリは一瞬言葉に詰まった。
「それは困るわ……。どうすればいいかしら」
「ならば私が同行しよう。万が一の時は私が盾となり、窮地を脱してみせる。黒竜の生命力は半端ではないぞ」
反政府勢力のアジトを探り当てたエリは、あえて「女神」としての威容を示す訪問を選んだ。人化したナイトホークを従者として背後に従え、眩い光の輪の中から忽然と姿を現したのだ。
そこは、反政府勢力の幹部たちが祈りを捧げる最中だった。祭壇の真上に突如として差し込んだ神々しい光。その中から現れたエリの姿を、彼らは自分たちが信奉する唯一神ソラディオの降臨と確信し、一斉にその場に平伏した。
エリは凛とした声を響かせる。
「セレブリオの民よ、楽にして我が話を聞け。――我、ソラディオとアルセリアの女神は同一のものである。決して敵対するものではない。それだけを伝えに来た」
それだけを言い残すと、エリは追及を許さぬ速さで再び光の中へと姿を消した。
聖ミルトス神殿の自室に戻り、ようやく一息ついたエリの脳内に、揶揄するような神の声が響く。
『エリ。ソラディオが「僕は女神じゃない」って怒っていたよ。「どこの世界に女の太陽神がいるんだ」ってね』
エリは不敵な笑みを浮かべ、心の中で言い返した。
『ミリエル、私がかつていた日本という国には、天照大神という高貴な女性の太陽神がいたわ。ソラディオがそれを知らないだけなんじゃない?』
『ははっ、君のその頓智がセレブリオの民に受け入れられるかどうか、見ものだね』
「神々でせいぜい、賭けの対象にでもするといいわ」
エリは窓の外に広がる夜空を見上げ、ふう、と小さく溜息をついた。強引な幕引きだったかもしれない。しかし、共通の神という「解釈」を植え付けたことが、血を流さぬ和解への第一歩になることを彼女は願わずにはいられなかった。




