虚実の火種
王が去った後の神殿の一室で、エリは仲間に事の顛末を話していた。
話を聞き終えたナイトホークは、椅子の背もたれに深く体を預け、呆れたように鼻を鳴らした。
「王ともあろう者が、そんな話をわざわざ神へ届けに来たのか。噂話レベルの懸念を神と共有しようとはな」
「私の知り合いにセルブリオの事情に明るい者がいます。少し話を聞いてみましょう」
オーエンが落ち着いた声で提案する。その横で、エリは窓の外を眺めながら小さく嘆息した。
「それにしても、レヴィアタンの竜鱗はいつまでも手を煩わせるわね……。もう私の手元にはないというのに」
「エリ、お前がマーメイド族のことを王に話したのが少々気になるな」
ナイトホークが、どこか煩わしげに視線を険しくした。
「穿った見方をすれば、王がお前の神力を利用しようとしているとも取れる。もしお前が王の話を真に受けて、先んじてセルブリオに『神の鉄槌』を下したりすれば、王にとってはこれ以上ない利益だ。そう考えると背中が寒くなる」
「ふふ、神界の連中なら『それこそ神の威光を示すチャンスだ』って大喜びしそうな展開だけどね」
冗談めかして笑うエリに、ナイトホークは真顔で返した。
「……情報を統べる神なんてのが実在したら、これほど恐ろしいことはないな」
それから一週間ほどが経過した頃、オーエンの知人からセルブリオの内部情報がもたらされた。
報告書に目を通したオーエンが、皆を呼び集める。
「セルブリオの中央政府でレヴィアタンの鱗の話題が出ているのは事実でした。ただ、我が国が独占しているから奪い取るといった過激な方針は存在しません。あくまで『隣国は羨ましいな』という世間話の段階だそうです」
「羨ましがるのを止めることはできんからな。ましてや、そこから攻め込んで奪うなど狂気の沙汰だ。王の取り越し苦労か?」
ナイトホークが肩の力を抜こうとしたが、オーエンは慎重に言葉を継いだ。
「いえ、火種が無いわけではありません。セルブリオ国内の反政府組織が、活動資金を激しく欲しており、そこら辺の動きが怪しいとの情報もあります。彼らが噂を煽っている可能性がある」
「あら……。そうなると、我が国の王様はセルブリオの現政権と反政府組織、どちらの方に肩入れしているのかしらね?」
エリがふと疑問を口にすると、オーエンは苦笑を浮かべて首を振った。
「どちらにも肩入れなどしないでしょう。セルブリオは小さな島国です。我が国の王にしてみれば、そもそもまともな相手にはならないと考えているはずですよ」
その言葉に安堵しつつも、エリは消えない火種の気配を、遠い潮風の中に感じていた。




