光降る戦場
戦場の上空、吹き抜ける風の中にエリはいた。
眼下では両軍が激しくぶつかり合い、その喧騒すら届かないほどの高みから見下ろすと、兵士たちはまるで行進する豆粒のように小さく見える。
「この高さからだと、戦争もなんだか暢気なものに見えるわね」
隣で巨大な翼を広げる黒竜姿のナイトホークに、エリは軽口を叩いてみせた。以前までの、自分を責めていた悲壮感はもうない。
「……それでは、行くわよ」
エリが意識を集中させると、彼女の身体から溢れ出した魔力が、神々しく、そして暴力的なまでに眩い「光のエフェクト」へと姿を変えた。黄金の尾を引きながら、彼女は一筋の流星となって高度を落としていく。
戦場の殺気は、空から降り注ぐ異様な輝きによって一瞬で霧散した。
やがて、数万の兵が剣を止め、等しく天を仰ぎ見た。その中心点、空中で静止したエリの声が、神威を伴って大地に轟く。
「双方とも武器を引き、しばしの間、停戦せよ」
凛とした声が戦場を支配する。
「侵入者よ。侵入の理由を語れ。守備隊よ、その言葉を遮らずに聞くがよい。……それでもなお、双方が血を流し合うというのであれば、我はもはや関知せぬ。好きにするがよい」
言い放つと、エリは再び光を纏いながら一気に上空へと舞い戻った。雲を突き抜けたあたりで、ようやく派手な演出を解除する。
「ふう……。ねえナイトホーク。彼らが私のことを、どこかの国の『新兵器』かなんかと勘違いしてなきゃいいんだけど」
「……エリ、君はそんな心配をしていたのかい?」
呆れたようなナイトホークの声に、エリは頬を掻いた。
「だって、光のエフェクトって目立ってかっこいいけど、私のいた世界には光る兵器なんて山ほどあったもの。変に刺激して、下から矢玉が飛んでこないかちょっと冷や冷やしたわよ」
「はは、その心配は無用だったようだな。ほら、見てごらん」
ナイトホークが顎で下を示す。
そこには、あれほど殺気立っていた両軍が、示し合わせたようにそれぞれの陣地へと静かに引き返していく光景があった。
「効果はあったみたいだ。一旦、矛を収めたよ」
「……あとは、彼らが正しい選択をしてくれるのを祈るだけね」
その後、戦場に設けられた天幕にて、異民族の長と守備隊の将による会談が行われた。
噴火による凶作、飢えに苦しむ民の現状。そして、侵略ではなく「生存」のための越境であったことが明かされる。エリが強制的に作り出した「沈黙の時間」が、互いに言葉を交わす余地を生んだのだ。
結果として、両者の間には正式な停戦合意が結ばれた。
今後の不可侵を条件とした、緊急の食糧援助の実施。
戦神が撒いてしまった災いの種は、皮肉にも彼女自身の手によって刈り取られ、新たな外交の種へと形を変えたのである。




