戦神の決断
身動きの取れなくなったエリの心に、不意にミリエルの穏やかな、どこか懐かしむような声が流れ込んできた。
『……ミリシアもね、こういう場面でよく悩んでいたわ』
「ミリエル……?」
『でもエリ、それは無意味な悩みよ。今回のことをよく見てごらんなさい。侵入してきた異民族は、戦いを始める前に「助けてくれ」と援助を申し入れることもできたはず。今戦っている守備隊の連中だって、最初の一発を撃つ前に、越境の理由を問いただすことだってできた。……誰も、戦いを避ける努力をしないままドンパチ始めているのよ。それはあなたのせいじゃないわ』
突き放すような、けれど温かい言葉。エリはハッとして顔を上げた。
「……ミリエル、ありがとう」
『別にいいわよ。ミリシアの二の舞になるのは、私も御免だもの』
それだけ言うと、ミリエルの神気はふっと霧散した。
「エリ様? 急に顔色が変わられましたが……どうかなさいましたか?」
オーエンが覗き込むようにして心配そうに尋ねる。エリは小さく、だが確かな笑みを浮かべて答えた。
「ううん、なんでもないわ。……ただ、あの駄女神様に、ちょっとだけ救いの言葉を貰ったのよ」
エリは椅子から立ち上がると、力強い眼差しで二人を交互に見た。
「オーエン、ナイトホーク。私に、戦神として何ができるかしら」
主君の復活を感じ取った二人は、不敵な笑みを返した。
「まずは、強引にでも休戦の神託を下したらいかがですか? 戦場のど真ん中で、誰もが平伏すような『ド派手な光のエフェクト』をぶちかまして」
オーエンが茶目っ気たっぷりに提案すれば、ナイトホークも腕を組んで頷く。
「それから、両者に無理矢理にでも話し合いをさせることだ。……そこまでお膳立てして、それでも戦いを再開するっていうなら、エリ、それはもう君のせいじゃない。彼らの意志だ」
仲間の頼もしい言葉に、エリの心に巣食っていた澱が消えていく。
「そうね。……よし、やるわよ! 私の演出、目に焼き付けさせてやるんだから!」
戦神エリ。
彼女が引き起こすのは、滅ぼすための戦争ではなく、止めるための「介入」だった。




