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戦女神の怠慢?

 レヴィアタンの鱗を巡る騒動がようやく幕を閉じ、神殿には久方ぶりの平穏が訪れていた。


 エリは居室の長椅子に身を預け、緩やかに流れる時間を楽しんでいた。傍らではオーエンが古い文献をめくる微かな音が響き、窓際ではナイトホークが鋭い眼差しで外界を監視している。


 そんな静寂を破ったのは、脳内に直接響く、抗いようのない神の託宣だった。


『――エリ、会議よ。神界であなたを喚問かんもんしたいそうよ』


(喚問されるようなことをしでかした覚えはないわよ!)


 心の中で叫ぶように抗弁したが、ミリエルの返答は冷ややかだった。


『いいから、ついてきなさい』


「……みんな、ごめん。神様の会議に招集されちゃった。ちょっと行ってくるわ」


 突然のことに目を丸くするオーエンとナイトホークに短く告げると、エリの姿は淡い光の中に掻き消えた。


 目を開けると、そこは荘厳な神界の議場だった。

 実体のない、だが圧倒的な威圧感を放つ声が頭上から降り注ぐ。


「戦の女神エリよ。なぜそなたが召喚されたか、分かっているか」


「……いいえ。全く心当たりはありませんが。私は知らない間に何か不手際でもしでかしたのでしょうか?」


 エリは背筋を伸ばし、努めて冷静に問い返した。しかし、返ってきた言葉は予想だにしないものだった。


「君の問題は、『何もしでかしていない』ことなのだよ」


「えっ……?」


「戦の神たる者、小は街角の喧嘩から、大は世界を揺るがす大戦まで、適切に『戦い』を創出しなければならない。だがエリ君、君はここ最近、仕事を全くしていないではないか」


 あまりの言い草に、エリは思わず声を荒らげた。


「戦争が起きないことが、そんなに悪いことなのですか!?」


「その通り。適切な戦争は、人や社会の発展を促す不可欠な装置なのだ。適度な争いが起きなければ、科学技術の進化スピードは著しく停滞する」


 見えざる声は、淡々と、しかし断固としてエリの理想を切り捨てていく。


「エリ、君が元いた世界を思い出したまえ。あちらでは『適度な戦争』が絶えずあったはずだ。だからこそ科学が発達し、それに付随して兵器が驚異的な進化を遂げた。君がこの世界で愛用している数々の兵器も、戦火という苗床があったからこそ生まれたものなのだよ」


「それは……」


 自分の趣味であるミリタリー知識の源泉が、皮肉にもその「戦争」にあることを突きつけられ、エリは言葉を詰まらせた。機能美の裏側にある血生臭い歴史を、戦女神として否定することはできなかった。


「人々に適度な戦争という刺激を与えること。それが君への期待だ」


 一方的に告げられた声が残響となり、視界が白く染まる。

 気がつくと、エリは神殿の自室に戻されていた。


 手元に残ったのは、平和への安堵ではなく、神から突きつけられた「宣戦布告」という名の宿題だった。


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