再びマーメイド族の村へ
エリは、神殿に回収された膨大な数の竜鱗を携え、再び深い青に包まれた海底のマーメイド族の集落へと向かった。
かつての騒乱が嘘のように、集落は静まり返っていた。現れた村長のマリオスに、エリは持参した鱗の詰まった大きな袋を差し出した。
「マリオス。商人に買い叩かれていたレヴィアタンの鱗、すべて取り返してきたわよ」
その報告に、マリオスは穏やかな笑みを浮かべて深く頭を下げた。
「それは……。ご足労をおかけしました。ありがとうございます」
「それと、相談があるの。今後、この鱗は年に十枚だけ、地上の人間に売り渡すようにしてちょうだい。これは私――神からの依頼だと思って受けてくれるかしら?」
「十枚、ですか。……ふむ、それなら百年ほどで底を尽きますね。分かりました、お受けしましょう。その程度の期間であれば、私の方で管理しきれると思います」
エリは、その回答に少しだけ目を丸くした。
「百年で無くなるのを『その程度の期間』と言い切ってしまうのね。マーメイド族にとって、百年は長くないの?」
「ええ。不老不死の種族である我々にとって、百年などはほんの少しの間、うたた寝をするようなものですから」
事も無げに言うマリオスの言葉に、エリはふと疑問を抱いた。
「不老不死……。それだと、どんどん人口が増えて困ったりしないのかしら?」
「それが、うまくできているのです。我々は事故などで命を落とした者の分しか、新しい命が宿りません。その上、子供が成人に育つまでにも膨大な時間が掛かる。増えもせず、減りもせず。それが我々に課せられた運命なのです」
マリオスは遠く、海底の闇を見つめながら続けた。
「今回は千年に一度のレヴィアタンの死骸ということで、流石に一族も沸き立ちましたが……普段は見ての通り、とても静かな種族なのですよ」
「……平和で、いいわね」
エリがしみじみと呟くと、マリオスは少しだけ寂しげな、それでいて慈しむような眼差しをエリに向けた。
「活気がないことを『平和』と呼ぶのであれば、そうかもしれません。ですが、地上のヒト族のように短命であれば、さぞかし人生はエキサイティングなのだろうなと想像します。うっかり気を抜けば、すぐに寿命が尽きてしまう……。だからこそ、彼らにはあのように忙しそうにしているのでしょうね」
静寂に支配された海底で、エリは時の流れの不思議さを噛みしめていた。
一瞬の閃光のように生きる人間と、凪いだ海のように永劫を生きるマーメイド。
その両方を繋ぐのが、自分の役割なのかもしれないと感じながら。




