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自立と職業病

 結局のところ、王が手にしたのはわずか五枚の鱗だった。名目は「鱗採取のために出船した際の手数料」という、なんとも世俗的で図太い理屈である。


 一方で、期待していた「お宝」をふいにする形となったカルミナの収穫は、たったの五枚。その不満をぶつける矛先は、当然のようにエリへと向けられた。

 カルミナはわざわざエリの元を訪れると、「あなたのおかげで、手に入るはずだった至宝を逃してしまったわ」という愚痴を、嫌味を交えてそれはそれは丁寧に、一時間近くかけて並べ立てて去っていった。


「……オーエン。カルミナ様って、本当はすごく性格が悪いんじゃないかしら」


 嵐のような訪問者が去った後、エリはぐったりとした様子で呟いた。

 それに対し、今やエリの従者になったオーエンは至極冷静に、現実を突きつけるような口調で返す。


「そうでなくては、主席神官などという激務は務まりませんよ。海千山千の王や官僚と渡り合いながら、同時に信者たちの前では聖女のような顔をし続けなければならないのですから」


「私、将来あんな風になるのかしら……。それはちょっと嫌だわ」


 エリが本気で憂鬱そうに独り言を漏らすと、脳内に直接、聞き慣れた声が響いた。


『あんた、自分では気づいていないみたいだけど、今の時点ですでに結構な意地悪さを持ってるわよ。だから心配しなくても大丈夫じゃない?』


(……ミリエル、それフォローになってないから!)


 心の中で先輩神に毒づきながら、エリはふう、と深く溜息をついた。


「私、神様ってもっとこう、絶対的で敬われる存在だと思っていたの。でも、ここでは神を利用するために騙したり、唆したり……。私のいた世界とは、神様との関わり方が根本から違うようね。……まあこれはこれで嫌じゃないけどね」


 その少し寂しげな言葉に、横で控えていたナイトホークが、どこか自慢げに胸を張って割り込んだ。


「ふん、我ら竜族はもっとすっきりしたものだぞ。何者にも頼らず、個々が自立しているからな。人間に媚びるような真似はせん」


「……その『自立』のせいで、火山の噴火が迫っても誰の言うことも聞かなかったのよね?」


 エリがジト目で切り返すと、ナイトホークは「うっ」と言葉を詰まらせ、気まずそうに視線を逸らした。


「……自立心が悪い方向に出ると、ああなるのだ。普段、周囲の雑音に影響されないというのは、決して悪いことではないのだがな……」


 竜族の誇りと気まずさの間で揺れるナイトホークの弁明を聞きながら、エリは「やれやれ」と肩をすくめるのだった。


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