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女神の慈雨と根本解決

 海面に、巨大な白い山がそびえ立った。

 先ほどまで深淵の覇者として君臨していたレヴィアタンが、真っ白な腹をさらけ出してぷかぷかと浮いている。


「念のためだ、これでもくらっておけ」


 ナイトホークが黒龍のブレスをその腹部へ放ち、じりじりと焼き焦がす。だが、巨獣はピクリとも動かない。


「……フン、どうやら討伐完了のようだな」

「それにしても、近くで見ると本当に大きいのね。これ、このまま放っておいてもいいのかしら?」


 エリの問いに、ナイトホークは肩をすくめた。


「いずれは腐敗して海に還るだろう。だが、あの鱗は一級品の素材だ。これだけの量があれば国が一つ買えるほどの値が付くかもしれん。まあ、一気に出回りすぎて価値が暴落するだろうがな」

「財宝には興味ないわ。王様にでも教えてあげれば、軍を動かして採取に来るんじゃない? 雨乞いの依頼達成を報告する時に、おまけで教えてあげましょう」


 エリたちは転移魔法で、オーエンが待つ海岸へと戻った。

 海の方を不安げに見つめていたオーエンは、エリたちの姿を見るなり駆け寄ってきた。


「エリ様! ……して、雨は?」

「根本的な原因だったレヴィアタンは倒したわ。海水温が元に戻れば、自ずと雲ができて雨も降るようになるはずよ」


 エリの科学的な説明に、オーエンは納得いかないという顔で詰め寄ってくる。


「それでは困ります! 今すぐ、速攻で降らせていただかないと、民も王も『エリ様が解決した』と信じてくれませんよ!」

「……まったく、現金なんだから」


 エリはやれやれと首を振った。信仰心や信頼というものは、理屈よりも「目に見える奇跡」を欲しがるものらしい。

 エリは王都の方角へ向き直り、あえて芝居がかった仕草で天を仰いだ。


「そんなことならお安い御用よ。――王都の周囲に、静かなる雨を降らせよ。これは『女神エリ』の命令である」


 エリが魔力を込めて「宣言」すると、瞬く間に王都上空へ巨大な積乱雲が沸き起こった。そして間を置かず、乾ききった大地に「しとしと」と、しかし確かな重みを持った雨が降り注ぎ始める。


「な、なんと……。最初からそうすればよかったのではございませんか?」


 感嘆しつつも、どこか不服そうに呟くオーエン。そんな彼を、エリは子供を諭すような目で見つめた。


「オーエン、それじゃこの大陸の干ばつの『根本的な解決』にならないの。今降らせたのは、あくまで私の魔力を使った一時的な現象。海の温度が下がったままだったら、私が魔法をやめた途端にまた干ばつに逆戻りだわ」


 エリは灰色の海が、少しずつ元の青さを取り戻していく様子を眺める。


「大事なのは、世界が自力で雨を降らせるサイクルを取り戻すこと。……わかった?」


 エリの言葉に、オーエンはようやく深く納得したように頭を下げた。

 空から降る雨は、火照った大地を冷ますように優しく、どこまでも穏やかだった。


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