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矛盾する神格

「っふ、ははは! そうか、エリは『戦の神』にされてしまったか。それは愉快だ」


 ナイトホークはこらえきれないといった様子で、肩を揺らして笑い声を上げた。その楽しげな様子に、エリは唇を尖らせて不満をあらわにする。


「ちょっと、笑い事じゃないわよ。私がこの世で一番嫌いなのが戦争なのに、それを統べる神様になるなんて、皮肉にもほどがあるじゃない。ひどい矛盾だわ」


「そうでしょうか? 異世界の武器にあれだけ精通していらっしゃるエリ様なのです。神々の視点からすれば、戦の神に選ばれるのは至極真っ当な判断だと思いますよ」


 傍らに控えるオーエンも、事もなげにそう言った。エリは「あなたまで……」と力なく肩を落とすが、ナイトホークは笑いを含んだ声で言葉を継ぐ。


「いいじゃないか。エリが戦争を完全にコントロールできる立場にあるのなら、そもそも戦いを起こさせなければいいだけの話だろう?」


「……あ」


 その言葉は、エリの脳裏に新しい視点をもたらした。思考が急速に回転し、重くのしかかっていた「戦神」という言葉の響きが、ふわりと軽くなる。


「そうか……。戦の神は、裏を返せば『平和を司る神』にもなれる、ということなのね」


 ようやく腑に落ちたという顔でエリが頷いた、その時だった。


『――エリよ。我が分身である女神ミリシアの後継者よ。戦の神として、しっかりと使命を果たしてほしい』


 どこからともなく、凛としたミリエルの声が意識に直接響き渡り、会話に参戦してきた。


「ちょっとミリエル、勝手なこと言わないでよ」


『勝手ではないわ。あなたをこちらの世界に引き抜いてきた時から、私はあなたをミリシアの後継者にしようと決めていたのだから。私としては、積年の願いがついに叶えられた気分だったわ』


 こともなげに、そして「しらっ」とした口調で衝撃の事実を告げるミリエル。エリはこめかみを押さえ、深いため息をついた。


「……はぁ。もう、わかったわよ。断れないなら戦の神としての使命は受ける。でもね、私は私なりの戦神になるから。後から『思っていたのと違う』なんて文句を言わないでよね」


 エリの決然とした宣言に、ミリエルの声がどこか懐かしむように和らいだ。

『そうか。それはいい……。かつてミリシアも、全く同じことを言って戦争の神を引き受けていたことを思い出すよ』


 慈しむようなミリエルの言葉に、エリは思わず拍子抜けしたような声を漏らした。


「……へっ?」


『ミリシアもエリ、あなたと同じで争いごとがひどく嫌いな少女だったのだ。彼女が神格を得て戦神になるとき、こう言っていたよ。――戦神自身が戦を否定すれば、いつか真に平和な世の中がやってくるはずだ、とね』


「そんな……。ミリシア様は、それほどまでに平和を希求していたのに……」


 エリの胸に、見知らぬ先代への共感が広がる。だが、ミリエルの声はどこか遠く、乾いた響きを帯びて続いた。


『だが、皮肉なことに戦争は増えた。民草たちは口々に「平和のための戦争」と唱え、この戦いに勝利すれば平穏が訪れると信じて剣を振るった。だが、たとえ勝利したとしても、得られるのは一時ひとときの安寧に過ぎず、決して長く続くものではなかった』


「どうして……。平和を願って戦っていたはずなのに」


『エリ、平和のための戦争だとしても、そこには必ず勝者と敗者が生まれる。そして敗者の心には、拭い去れない怨みが澱のように残るのだ。その怨嗟が、次の戦争を引き起こすための新たな燃料になる。……悲しい連鎖だよ』


 諦めに似たミリエルの独白。重苦しい沈黙が流れる中、エリはずっと気になっていた問いを口にした。


「……ミリエル様。あなたとミリシア様は、一体どういう関係だったのですか?」


 その問いに、ミリエルは一呼吸置いてから、静かに、だが重みのある真実を告げた。


『私たちは――双子の姉妹だったのだよ』


「えっ……!?」


 驚きに目を見開くエリをよそに、ミリエルの言葉は核心へと触れていく。


『エリ、今のあなたの姿は、私の似姿ではない。それは……ミリシアの姿そのものなんだ。この世から消えてしまったミリシアの面影を、あなたに反映させてしまった。それは、神である私の……最大にして最悪の我儘わがままなのよ』


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