神の座への招集
北部山脈の裾野に点在する村々は、かつての噴火の爪痕を塗り替えるような活気に満ちていた。
火山の沈静化と共に新たに湧き出した豊かな湯。その温泉は「女神の湯」と名付けられ、村の入り口に立てられた由緒書には、噴火を鎮めた女神エリの功績が仰々しく刻まれている。
「そんな恥ずかしいもの、私の目に入るところに置いたら天罰を落とすわよ」
エリはそう吐き捨て、由緒書の方を向きもしなかった。
その頑なな態度に苦笑する暇もなく、彼女の脳内に凛とした声が響き渡る。
『エリ、今回の地震収束の活躍、正に神らしい奇跡だったわね。あれが出来る神は、そうそういないわよ』
それは、駄女神ミリエルからの念話だった。
『……そろそろエリのところにも、神界での集会に参加するように呼び出しがあると思うわ』
「私はそんな会に出席するつもりはないわ。そもそも、自分が『神』だなんてことに、まだ納得がいっていないんだから」
エリがいきなり虚空に向かって反論を始めたため、傍らに控えていたオーエンとナイトホークは一瞬驚きに目を見開いた。だが、すぐに(またミリエル様が話しかけてきたのだな)と察し、静かに彼女を見守る。
『エリも神の座の末席に座るのだもの。最初くらいは顔を出しておいた方がいいわ。これは神界の先輩からの忠告よ』
少し得意げに「先輩風」を吹かせるミリエルに対し、エリは溜め息をついた。
「神の座に座るって……一体どうすればいいのよ」
『エリ、何度も言っているけれど、ただ「行きたい」と念じればいいのよ』
遠ざかっていくミリエルの声と入れ替わるように、神殿の居室の窓辺に一羽のカラスが舞い降りた。
不吉な予感にエリが眉をひそめた瞬間、そのカラスが人間のような言葉を発した。
「女神エリ、招集だ。我に従え」
カラスはそれだけ告げると、大きく羽ばたいて空へと舞い上がる。
「……行ってきなさい、エリ」
背中を押したのはオーエンだった。
「神の世界がどんなものか、その目で見てきてください。そして、後で私達に教えてください」
ナイトホークも、力強い眼差しで彼女を見据える。
「案ずるな。困ったときは我を呼べ。たとえ神の世界であろうとも、地の果てまで助けに行く」
二人の信頼に応えるように、エリは小さく頷いた。
覚悟を決め、迎えのカラスを追って地を蹴る。彼女の体はふわりと宙に浮き、そのまま高く、高く、神々の住まう空の彼方へと吸い込まれていった。




