神の孤独、エリの涙
噴火の熱狂が去り、火山のふもとにはようやく静寂が戻ってきた。
かつて村があった場所の跡地で、エリは小さな焚き火を囲んでいた。
「――よし、これで元通りね」
エリは、ボロボロになっていたナイトホークの体に手をかざし、回復魔法を施した。
焼け焦げた服と傷だらけだった肌が、神力の奔流に包まれて瞬時に再生していく。光が収まった後には、彫りの深い、野性味と品格を併せ持つ――例えるならシェマ・ムーアのような――見事なまでのイケメンがそこに座っていた。
「……感謝する、エリ殿。無茶をさせたな」
「無茶をしたのは貴方の方でしょ。竜族の仲間を助けるために、あんな火の雨の中を飛び回るなんて」
私は焚き火に視線を落とした。パチパチと爆ぜる火の粉が、先ほどまで目にしていた地獄のような噴煙の光景と重なる。
「……結局、地震対策が火山噴火になっちゃったわね。私の中のロジックでは、あのタイミングでマグマの圧力を抜くのが最善だった。そう確信して実行したわ。……でも、それが本当に『正解』だったのか、私には分からない」
数万、数十万トンのエネルギーを操り、惑星の機嫌をねじ伏せる。
やっていることは、もはや女子高生の趣味の範疇を遥かに超えていた。
「エリ殿。神である貴女に間違いなどない。……いや、たとえ間違いがあったとしても、貴女が決めたことがこの世界の理になるのだ。神として、もっと自分に自信を持っていい」
ナイトホークの言葉は力強かったが、今のエリの胸の内には、その「神」という言葉が鋭い棘のように刺さった。
「ねえ、ナイトホーク。……私はもう、ヒトには戻れないのね」
ポツリと、心の奥底に溜まっていた澱のような不安が口をついて出た。
世界の理を書き換え、爆弾の父を召喚し、天変地異を制御する。そんな存在が、どうして普通の女子高生として、放課後のコンビニで買い食いをしたり、スマホを弄ったりする日常に戻れるだろうか。
ナイトホークは、焚き火越しに私を真っ直ぐに見つめた。
「たとえ神という座に昇り、どのような力を持とうとも、エリはエリだ。……俺が見ているのは、あの時キャンプ地で不器用にテントを張っていた、一人の奇妙で誇り高い少女だ。何も変わらないし、俺も態度を変えるつもりはない」
エリは笑おうとした。
いつものように「ミリオタの私に隙はないわよ」と軽口を叩こうとした。
けれど、視界が急激に滲み、声が震えて止まらなくなった。
「……そんなことを言われると……。涙が出ちゃうじゃない」
エリは我慢できず、彼の胸に顔をうずめた。
ナイトホークは驚いたように一瞬だけ体を固くしたが、すぐに大きな、温かい手をエリの背中に添えた。
神殿の冷たい石畳の上でもなく、戦場の火薬の臭いの中でもない。
ただの焚き火の温もりと、隣にいる者の鼓動。
神様になった女子高生は、この夜だけ、普通の女の子に戻って声を上げて泣いた。ナイトホークは何も言わず、ただ静かに、その涙を受け止めていた。




