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大地の鼓動と荒療治

「神殿に請願を送ったのは、この村の者か」


 オーエンが、集まった村人たちへ低く通る声で問いかけた。

 ざわめきの中から、一人の年嵩としかさの男が震える足取りで進み出てくる。


「村長でございます。……この度は、大地の怒りを鎮めていただきたく、神殿に女神様の奇跡をお願いいたしました」


 男は切実な面持ちで、すがるようにこちらの顔を覗き込んできた。

 私は一歩前に踏み出し、村の背後にそびえる山を見上げながら問いを重ねる。


「この『大地の怒り』が始まったのは、いつ頃から?」


「はい……一月ひとつきほど前からです。もともと、このあたりは地揺れそのものは珍しくなかったのですが、これはどうにもおかしいと気がついたのが、ちょうどその頃でして」


「それ以外に、何か変わったことはなかった?」


 私の問いに、村長は思い出しただけで恐ろしいといった様子で、言葉を継いだ。


「山の方で、小さな地割れが多数見つかりました。猟師の話では、山全体が……その、膨らんでいるのではないかと。まるで、中から何かがせり上がってくるような不気味な膨らみでございます」

「他には?」

「いくつかの井戸が枯れました。残ったものも、急に熱を帯びて温泉のようになったりいたしまして……。もはや、人の手に負える状況ではございません」


 報告を聞き終え、私は確信を持って頷いた。

 足の裏から伝わってくる微細な振動。そして、かすかに混じる硫黄の臭い。


「分かったわ。……やっぱり、火山活動が活発になっているようね」


 このまま放置すれば、いずれ限界を迎えた大地が弾け、未曾有の大噴火を引き起こすだろう。

 私は同行している仲間たちに視線を向け、事もなげに言った。


「――ねえ、少し『荒療治』をしてもいいかしら?」


「どのようなことを……するつもりなのですか?」


 村長がおずおずと尋ねる。私はその山を指差し、断行すべきプランを告げた。


「強制的に火山を噴火させて、溜まったマグマの圧力を解放するのよ」


「な……っ!? 危険すぎるのでは!」


 すぐさまオーエンが悲鳴に近い声を上げた。賢者としての常識が、その無謀さに警鐘を鳴らしているのだろう。

 けれど、私は揺るがない。


「確かに、人間のできる芸当ではないわね。でも、神力しんりきを使って調整しながら道を作ってあげれば、可能な気がするの」


「……やるしかない、ということだね」とナイトホークがややあきらめ気味に言う。


 エリが、冷静な口調で住民に告げた。


「その代わり、準備が必要よ。この近辺に住む地域の住民には、直ちに避難してもらうわ」


 現実的な手順を口にするエリの横から、ナイトホークが心配そうに口を開いた。


「この近辺に住む竜族なかまたちはどうすればいい? 逃げ遅れれば、ただでは済まないだろう」


 種族の安否を気遣う彼に、私はまっすぐな視線を向けた。


「火山の噴火に耐えられる自信があるなら、現状通りで構わないわ。でも、少しでも不安があるなら、迷わず逃げてと伝えて」


 空を見上げれば、山頂からは黒い煙が立ち昇り始めている。

 女神の奇跡か、あるいは破壊の業か。

 大地の圧力を解き放つための、命がけの作業が始まろうとしていた。


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