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揺れる大地と、奇跡を知らぬ国

 神殿の一室に、カルミナの落ち着いた、しかしどこか切迫した声が響いた。


「エリ様。王国北部の山岳地帯にて地震が多発しており、民たちが怯えております。『大地の怒りを鎮めてほしい』との切実な依頼が届いておりますが、いかがいたしましょうか」


 報告を受けたエリは、ティーカップを置いてふむ、と眉を寄せた。


「地震ね……。カルミナ、悪いけどそれは『大地の怒り』なんてスピリチュアルなものじゃないわ。震源地の近くに、火山か何かがあるんじゃないかしら?」


「カザン……ですか?」


 聞き慣れぬ言葉にカルミナが首を傾げると、傍らに控えていたオーエンが補足するように口を開いた。


「火山の有無は分かりかねますが、その周辺は有名な湯治場として知られておりますな。いたるところから熱い温泉が湧き出していると聞き及びます」


 その言葉に、部屋の隅で静かに気配を消していた巨躯の男――人化した黒竜、ナイトホークが低く笑った。


「火山ならあるぞ。我が住まいのすぐそばだ。あそこは冬でも地面が温かくてな。寒さに弱い我ら竜族にとっては、冬を越すのにこれ以上ない理想の地なのだ」


「へぇ……」


 エリはニヤリと口角を上げた。


「無敵のナイトホークにも弱点があったのね。『寒さに弱い』、しっかり覚えておくわ」


「……っ、エリ、あまり変なことに使うなよ?」


 最強の竜族が少しだけ肩をすくめる。そんなやり取りを交わしながらも、エリの瞳には現実的な解決策を模索する光が宿っていた。


「とにかく、地震の原因が火山活動によるものか、あるいは別の要因か、現地で確かめるのが先決ね。行きましょう」


「では、儂の転移魔法でひとっ飛びといこう」

「私もお供いたします、エリ様」


 ナイトホークが指を鳴らす。一瞬の浮遊感のあと、三人の視界は王宮の石壁から、雪を冠した険しい山々と立ち上る湯煙の景色へと切り替わった。


「……エリ様は、ずいぶんと火山にお詳しいのですね」


 岩肌を歩きながら、オーエンが不思議そうに尋ねた。未だに地震を「神の祟り」と信じる者が多いこの世界で、エリの断定はあまりに迷いがなかったからだ。


「詳しいというか……私の元いた『日本』っていう国がね、火山と温泉、それから地震の国だったのよ」


 エリは遠い空を見上げるように目を細めた。


「地震が起きれば古い由緒ある建物が壊れ、火事が起き、津波に飲み込まれて大勢の人が亡くなる。それが日本だわ。日常の中に、いつもその恐怖があったの」


 その言葉に、オーエンが痛ましそうに表情を歪める。


「……左様でしたか。では、エリ様の故郷の神は、民を救おうとはなさらない神だったのですね」


 あまりに慈悲のない自然の猛威。この世界の感覚からすれば、それは「神に見捨てられた地」に等しい。


「そう言われれば……そうね。あっちでは神様による奇跡なんて一度も聞いたことがないし、誰もそんなもの期待していなかったわ。みんな、自分の知恵と工夫でどうにかするしかなかったから」


「……実際に奇跡を起こしてしまわれるエリ様が、そんな『奇跡のない国』から来られたとは」


 ナイトホークが感心したように、あるいは皮肉を込めて鼻を鳴らす。


「エリが故郷に帰った時にはあちらの神も困惑しただろうな。自分の管轄外からやってきた小娘が、道理を超えた力で勝手に問題を解決してしまうかもしれないのだから」


「あちらとこちらでは、奇跡のあり方がだいぶ違うみたいね」


 エリは苦笑しながら、足元から伝わる微かな震動を感じ取った。


「さあ、お喋りはここまで。この『大地の不機嫌』、科学的に……いえ、私のやり方で黙らせてあげましょうか」


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