6/4 協力者たちと図書館に篭もる人達
「それで、肉じゃがはどうなったんだい?」
「……ちょっと焦げた」
「明日が本番、緊張しないでいこう。何しろ出来た料理は僕達も食べることになるからね」
ふと、指月の持っている紙を見る。それは漬物部と料理部の対決についてのビラだった。彼等がビラ配りをしていたことを思い出す。
「……知らん間に色々とやってくれてたみたいだな、有難う」
いやいや、と手を振りつつもやや嬉しそうにする指月。
「部活動としてはのんびり活動しすぎてたと思うからね、こういう刺激もたまには必要なんじゃないかな」
「ビラ配りやポスター貼りでもか?」
「個人的には、もうちょっとビラのデザインを工夫したかったんだけどね。時間との折り合いでシンプルに時間と場所と部活名だけを書いたのを作った感じかな」
「案外楽しんでんのな、なんか安心した」
「イェィ」
楽しそうで何よりです。そういえば、と思い出す。
「指月、ちょっと耳貸してくれ」
「耳なし芳一の真似はできないよ?」
「誰だ、それ」
そう言いつつも、部屋の壁に寄ってくる俺達。話したいことが一つほどあった。
「この学校の生徒会ってどうなっているんだ、下働きが居たり昔は武力で人員集めてたり」
「……そのことなんだけどね、どうも僕達生徒は見張られているらしい」
「学校のそこかしこにある監視カメラの事か? でも、学校全体をカバーできるほど個数はないぞ」
「昔の話だから信憑性が有るかは不明だけど。以前監視カメラの前で出来ないような魔法実験をした生徒が居たらしい。実験自体は事故で中止になったけど、怪我した生徒のもとにあっという間に生徒会の人物が駆けつけて手当をしたんだとか」
「偶然、にしては幸運だな。だが確証を持って監視されているとは言い切れない材料だと思うが」
そう疑問を口にすると、指月はここぞとばかりに声を潜める。おかげで余計に緊迫した間隔で聞く羽目になった。
「一回ほど僕自身も試してみたんだ。丁度いい場所を見つけて、協力してくれる人と喧嘩の真似事だけやってみた」
「……行動力有るのな、指月達」
ちょっと驚く。俺なら絶対にやらないと思う。土筆んぼうもやらないだろうし、白石先輩も若竹もしないだろう、立花先輩は少し可能性があるかもしれない。
だけど、と指月が表情を一変させて続ける。
「喧嘩に魔法を使おうとした瞬間に生徒会の人がやってきて注意されたんだ、『決闘なら正規の申込を受け付けてからやってくれ』だってさ」
ふむ、と少し間を置いてから返事をする。
「お固い連中なのか、柔軟なやつなのか分からんな。だが、そこまでハッキリすると怪しい。一体何の目的で監視しているんだ」
俺の疑問に首を傾げつつ、さぁ分からないねと呟く指月。
「だけど僕自身が思うのは、それがコッチに何かしらの被害を被ってないかぎり関係ないってことだと思う」
ますます意外だった。俺は指月のことを少々誤解していたかもしれない。
「そうか? 俺達の生活が見られているってのはなんだか気が張るものが有ると思うが」
「怪しまれる事してるのは重々承知なんだけど、一線超えなければ何もしない。結構生徒会は厳重なルールの元動いているかもしれない、って言うのが僕の現状の仮説で。その場合、特に僕に不利に働くわけでも無いからね」
「……そうか。割りきって行動できるのは良い事だと思う」
俺の場合、少し気になる気分にはなるから。
*** ***
部活動にめっぽう来たりせず、図書館に篭りっぱなしの若竹。だが、今日はこちらから携帯で連絡を取る。
「順調か」
「部活動での功名を上げる必要が有るとは聞いたが、果たしてこれで大丈夫なのか」
「今はそれで良い。料理部と同様に、まずは名前から生徒会ならびに普通の生徒達にも知ってもらうことが大事だからな」
通常なら、これで終わりのはずだった。だが俺は質問を重ねる。
「……叔父を探すことと、生徒会に名前を知られること。今ひとつ、そこの相関関係がピンと来ないんだが?」
「以前言ったかは忘れたが、私の目的は今後生徒会に入ることなんだ。勿論、下働きとしてではなく管理者側として。その時に漬物部の存在を向こうが知っていれば、『ああ、あの部活か』となって話が円滑に進む」
理屈は分かる。だが、それでも理解できていないことがある。
「漬物部という名前がそもそも不思議だからな、だが若竹自身は部活で活躍してないだろう?」
「そうだな、功名を掻っ攫うことになる」
本当に伝えたいのは、そこではない。だが、逃げ道に逸れるように別の質問を続ける。
「漬物部を踏み台にしてでも生徒会に入りたい理由。それを教えてくれないか」
「…………君自身は嫌がると思うが。私自身の本当の所属はこの学校ではない」
やはり、あの連中かと確信が持てた。自分とは、否。自分の両親とは恐らく切って離せない存在。
「国際魔術刑事警察。私の本来の所属はIMCPだ。捜査対象は君だけではなく、この学校で、禁止されている魔術を行使しようとしている人物が居る」
「やっぱり、か。IMCPがしつこくウチに来たせいで叔父は引っ越すことになったというのに」
「そうだな、その件に関しては申し訳ないと思っている。だが、今回の件は違う。君の叔父が失踪したんだ、捜査対象が失踪となるとこれは別の事件の引き金になる」
俺は、思わず携帯電話に。若竹に向かって大声を上げた。
「そっとしておいてくれって、あの時言っただろ!」
長い間、互いに沈黙が続く。
「――――悪いな、若竹に当ってもどうしようもない事と分かっては居るんだが」
「気にするな。逆の立場なら同じように動揺してIMCPに反感を覚えたかもしれない。だが、私が本当に属していると思えるのはあそこなんだ」
向こうから見えないが、俺は黙って頭を振る。忘れるように。無かったことにするように。
「考えないようにする。若竹がIMCPだっていうこと。叔父が居なくなったこと。部活で活躍して、テストでも良い結果をとって。アンタが生徒会に入って、叔父が戻ってくるように頑張ることだけ考えるようにしている」
だんだん、自分でも発言に熱が篭もるのがわかっていく。
「ああ」
電話の向こうの若竹の声は、何処までも冷静だった。そのことがより自分の愚かさを理解させる。
「でもな、頭によぎるんだ。今スグにでも学校をやめて叔父さんたちを探しに戻ったほうが良いんじゃないかって。俺にとっては、両親は叔父さんで兄妹はあの人達だけなんだ!」
電話の向こうの声が聞こえない。若竹が黙りこむのは珍しい、と思った。何時も通り冷静だと思っていたのに。しかし、向こうから声が戻ってきた。
「分かっている」
冷静沈着。それがまた、俺を感情的にさせる。
「どうしたら良いなんてことを聞いてもどうしようもない事だ。だけど、どうしたら良いか考えてしまう!」
「そうだな」
「俺はこのままで大丈夫なのか、俺が進んでいる道は正しいのか、あの人達は無事なのか。――――何一つ、俺じゃあ答えが出ない」
「済まない」
彼女に言ってもどうしようもない事だ。十分、理解していたはずだ。どうしてそれを彼女にぶつけてしまったのか。
「……良いんだ、若竹は十分やってる。暗躍を計画するなんて俺には出来ないことだからな」
「…………」
電話口から、若竹の呼気が聞こえる。俺自身、自分で何を言っているのかハッと気づく。
「長いこと話してしまった。もう、切るぞ」
「ああ」
最後の最後まで、彼女の声は俺と対照的で、感情なぞひとつも含んでいないかのようだった。




