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6/4 目標は何にする?

昨日と同様、料理の練習ということで部活棟の一階家庭科室を使わせてもらうことになった。

今日はいきなり練習から始めず、作戦を練る段階から始めよう、と安岡先輩。

「作りたい料理を決め打ちしましょう」

「……審査員の心積もりで全てが決まるんですよ?」

「アイツら、絶対に漬物を添えてくるわ。私達は逆にスープを添えるわ!」

「この部活をスープ部にでもするつもりですか」

「存続のためならスープ部でもコンソメ部でも缶詰部にでもなってやるわよ!」

「最後のは自力の要素が全く無いじゃないですか……」

「そんな事言ったら手作りチョコレートなんて湯煎して型をとっただけじゃない」

「そこは調味料程度に批判を抑えときましょうよ、どうして突然にバレンタインへの宣戦布告になったんです」

「渡す相手は居ない!」

「……ちょっと意外なんですが」

部室から取り出した小型のホワイトボードに、『スープ』と書いて丸で囲む安岡先輩。

「ご飯の炊き方は昨日練習したわ!」

「知らなかったら洗剤で洗ってたんじゃないですか」

得意げな表情をうかべて、安岡先輩が返答する。

「流石にそれはないわ、精々石鹸よ」

生徒会の連中に毒殺の危険性を説明しておく必要が有るかもしれない。参加は任意で誓約書が必要と。

今度は『ご飯』と書いて丸で囲む。炊き込みご飯という手法もあるが、そんなに高度なことはしないほうが良さそうだ。

「残りは主菜と副菜。メインディッシュは生徒会から決めさせられると考えて、副菜を決めても良いかもしれないわ」

「なるほど」

こういう風に説明されれば、一つほど得意料理を持っていれば有利になるかもしれないと思える。

「候補は有るんですか」

うん、と口元に手を当て考える安岡先輩。少しの合間を経て答えが帰ってきた。

「肉じゃが。肉じゃがよ!」

「俺みたいな素人には十分に高度なんですけど」

「大丈夫よ」

再び、確信を得た表情をする先輩。やや長い髪をなびかせて、彼女は二言目を口にする。

「私も素人だから」

「何の保証にもなってないです」

「そういう訳で、肉じゃがのレシピを持ってきたから練習しましょう」

「本番の主菜の練習は良いんですか」

「そうねぇ。食材の他にも持ち込みは可能だから、本番で調べつつ作るしかないわ」

「ぶっつけ本番、ですか」

「……難しい、わね」

珍しい事に、暗い顔をする安岡先輩。そうされると、どうも調子が狂う。

「――いや、大丈夫です」

無理にでも、こちらがイケルという体勢を整えなきゃいけない。

「心強いわね」

「その代わり。本番に手伝ってくださいね、皮むきとか」

「任せなさい!」

不安げな表情は一転、明るい意思に変わったはず。これなら、まだ勝負は受けれるだろう。

昨日、皮むきに練習した人参とジャガイモを冷蔵庫から取り出し、キッチン台に並べる。

その間、肉じゃがのレシピをムック本から調べだして開いてゆく安岡先輩。資料などが集まっている部分を考えると、決して料理をしていない部活では無いのだろう。たまたま2年生が1人になって、そしてその1人が料理できず後輩が上回っているというだけの問題らしい。

二人並んで、まな板の上の人参、玉葱をとんとんシャクシャク刻んでゆく。

「ジャガイモの芽……取りにくくないかしら……」

メークイン相手に格闘している安岡先輩。俺も正直苦手だ。

「ピーラーの横の出っ張り使うと取れやすいみたいですよ」

「ホント? っ、よいしょっと……おおっ取れた!」

「凸凹の多いジャガイモは料理しづらいですね、これは」

「本番はなるべく丸いのから選ばなきゃね、ところで何で芽をとるのかしら」

「それ毒です」

「ああ、道理でこの間の肉じゃが食べた後に体が痺れたのね!」

「……しばらく先輩と同時にご飯を食べるの辞めたほうが良さそうですね。笹方君は被害にあってないんですか」

「一緒に食べてくれた」

「優しいっすね」

「あぁ……なんてことしてしまったのかしら、私」

頭を抱えている安岡先輩。そんなにも、後輩への(無意識的)弾圧を後悔していたのか。

「――そう悔やまなくても」

「こんなに毒への耐性がある後輩が来るとは思ってなかったわ、もっと鍛えれたのに」

「そっちかよ!」

「ジョークよ、メキシカンジョーク」

「メキシコの方角向いた状態で土下座したほうが良いと思います」

「私は宗教に重きを置くタイプじゃないから五体投地はしないわ」

「別に宗教的な話題じゃねーよ!」

この人の相手は疲れる。指月くんや、つくしんぼとの安寧の日々が懐かしい。

『翔っちー宿題おせーて-、あと野球しようぜー!』

『な、長峰くん……またあの3人が屋上のドアを吹き飛ばしてしまって、どうしよう……!』

……やっぱどっちも疲れるわ。

「なんか失礼なこと考えてないかしら」

「人の心を読まないで下さい、今既に回想している段階で疲れ果てているので」

「やっぱり考えてたんじゃない!?」

しばらくの談笑を楽しんだ頃合い。冷蔵庫から事前に取り出しておいた牛肉がおおかた解凍された頃合いをみて、鍋に火をかける。

「ダシ、醤油、ミリン……長峰くん、準備オーケーよ」

「よし、もう少し牛肉に火が通ったらお願いします…………今です!」

えいやっ、と先輩が鍋に調味料類を加え中火にかける。菜箸で焦げ付かないように炒めていた作業も終わり、今度は灰汁を取るためにお玉を手に取る。

「次、アルミホイルの用意をお願いします。クシャクシャにしておいて下さい」

「了解!」

先輩を使うような形になっているが、火元を扱う身としては許してほしい。多分安岡先輩のノリなら許してくれるはず。やや茶色みがかったスープから、お玉で何度か灰汁を取り出してキッチンシンクに流す。……味噌汁おわんでも用意すれば良かった。

「3分経ったかしらね。落し蓋、行きます!」

「はい!」

安岡先輩がグツグツと暖かそうに湯気を立たせる肉じゃがスープに、アルミの落し蓋をそっとかぶせる。

これにて、一通りの調理は完成。後は汁気を飛ばし過ぎないように中火で暖め続けるだけだ。

「……ふぅ。案外調理の手法自体は難しくないわね」

「問題は美味しく出来るか、って点ですかね。それと焦げ付きを作らない所」

「本番では私が見ておいてあげるから安心して、主菜をやってくれていいわよ」

「助かります」

タイマーなどを使ってもいいが、人が見ておいたほうが安全性は有るだろう。火をずっと眺めるのも辛いものがあるので、調理室に置いてある緑茶を淹れることにした。

「……あら、有難う」

「こちらも暇なんで。この時期に熱いものも少々合ってないとは思いますが」

「そうでもないわよ、暑い時期に緑茶を飲むと体温調整に役立つらしいわ。カレーと同じよ」

「カレーと同列視するのは果たして合ってるんですか」

「効果だけ見れば一緒よ、一緒。……ちょっと渋いわね」

「淹れ方がマズかったですかね、確か70℃が最適温度と聞きましたが沸騰水そのまま淹れてます」

「……なんでわざわざ失敗するように淹れたのかは分からないけど、多分茶葉の問題よ。」

しばらく、ゆっくりと熱めのお茶を啜りながら時間を潰す。そういえば、カレーの一件から余り漬物部では料理をしていなかったなと思い出す。今後、予定を増やすことが有るだろうか。

「料理部は、今後どうするんですか? 漬物部から部員を引っ張っても部員が足りませんよね」

そうね、と言いつつ安岡先輩は今度はホワイトボードの裏面に書き込み始めた。

「今回の勝負はキッカケに過ぎないわ、あくまで料理部の名前を広めるのが目標。知名度を上げつつ部員を集めるのが今学期の目標、もとい必須条件ね」

『宣伝』と書き込み、何本かの線をそこから引いてゆく。その一本の先に『部活への挑戦状』、更にその先に『漬物部(今回!)』と書いてある。

「まだ先が有るんですか」

「そうね、漬物部の人と協力で行っているのがビラ配り。地道な宣伝ね、後はポスター作成と放課後の部活ガイダンス。料理で釣ることが出来れば成功かしら」

『宣伝』の線から『ポスター』、『ビラ配り』、『ガイダンス』へと書き繋いでゆく。

「……昔、釣られた記憶でも?」

「……あー、うん」

あったらしい。なんにせよ、戦略は練っているようで安心した。それが完全に俺の知らないところで動いていたというのが、やや申し訳ないと思う部分ではあるが。

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