裁判
「前王の血筋か……」
前王も魔族や魔物への嫌悪感を隠しもしなかった。
悪魔と老魔族と3人で頭を突き合わせる。
「また、和解には遠のきますな」
「ああ。だが、法に則り裁かねばならない」
犯人が魔族でも人間でも魔物でも、それは同じことだ。
でも、和解の道があるのなら探したい。
けれど、法を決めた意味がなくなる。
「悪魔。その指紋は立証することが可能か?」
「出来なかったら言っていない」
「そうか……議会を始める。議員のみんなに伝えてくれ。あと、犯人にも出席するよう指示してくれ」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げて老魔族が執務室から出て行く。
裁判は、三日後に行われることになり、犯人はそれまで牢に入れておくことになった。
「気が重いな」
「だから、俺と一緒に逃げるか?」
「悪魔の甘言にはもう乗らないよ」
「それは残念だ」
悪魔は肩を竦めた。
本当は残念がっていないくせに。
準備を整え、裁判の日がやって来た。
前王の家系の人間が犯人ということもあり、人間も魔族も魔物も傍聴席は入り切らず抽選になる程だった。
そんな中、裁判は行われた。
「君は、丘の上の魔族の家に盗み入り犯行を働いた。間違いないね」
「証拠はあるのか」
太々しく犯人が尋ねる。
「悪魔。証拠を頼めるか?」
「ああ。これは、魔族の家に残っていた指紋全部だ。この中に、家族以外の指紋が複数。その中で、対象者がわからない指紋が一つ。その指紋は、事前に提出してもらったおまえの指紋と同じものだ」
魔法で空中に投影された指紋が一つに重なる。
それはピッタリ重なった。
「そんなの、でたらめだ!指紋なんかどうやって取るっていうんだ!」
議員にも、証拠は捏造では?と疑う者がいた。
人間だった。
魔族と魔物は人間を睨みつける。
そして、議席も傍聴席も揺れる。
あわや全面対立かというところで悪魔が軽く茶々を入れた。
「おいおい。俺は悪魔だぜ?人間と対立している魔族と一緒にしてもらっちゃ困る」
「悪魔なんか、余計に信用ならない!」
「まあ、そう言われるかもな。なら、もう一度指紋を取ろうか?」
そう言うと、悪魔は犯人の手を取り指紋を赤くした。
犯人はこれ以上ないほど震えていた。
「これに重ねてみろ」
魔法で投影されていた指紋と重ねる。
今度も重なった。
「これ以上、言い逃れは出来るか?」
「これも捏造では?」
人間側の議員が言う。
援護する野次が飛ぶ。
「それは……」
「もういいだろう。悪魔、ご苦労だった」
僕がそう言うと、悪魔が僕の側に戻って来た。
「指紋が犯行の証拠になることは過去の事例にもある。その時には人間の魔法使いが証明した。人間も悪魔も関係ない」
議員席を見る。
「反対意見があったら述べよ」
「王よ、私は異議を唱えます」
前王派の反魔族派で有名な議員だった。
「確かに、指紋は有益な証拠です。ですが、それが本当に本物だという証拠はありますかな?」
悪魔と魔族と魔物が言うことは認めないというわけか。
「先ほども言ったが、人間の魔法使いが指紋の証拠を認めさせた事例がある」
「それは人間だからでしょう」
「裁きに人間も悪魔も魔族も魔物もない」
「あります」
人間の議員は言い切った。
僕はこめかみが痛くなる。
誰だよ、こんな偏見の塊を議員に承諾したのは!僕だよ!
人間贔屓の者がいてくれたら議会に信憑性がますと思ったんだ。
「……それは差別発言では?」
老魔族が静かに怒る。
他の魔族達も怒っている。
制度は誰かを救い、誰かを切り捨てる。
それでも進めたのは自分だ。
僕は、僕のしてきたことはなんだろう。
まだまだ長い年月をかけてもこの溝は埋まらない。
神に何度リセットされても変わらないように、この世界でも変わらないのだろうか。
僕は、この世界のために何が出来るだろうか。考えれば考えるほど深みになる。
とりあえず目の前の事件だ。
「この件は、前例に則り、指紋証拠を採用するものとする。僕からは以上だ。王として、これを決する」
僕はみんなに聞こえるようにそう伝え、震える犯人を見据える。
「犯人は君だね」
犯人は叫んだ。
「だって、通貨も使えないような魔族に通貨なんて持たせても宝の持ち腐れだろう!?俺が正しく使って何が悪い!」
開き直るその姿に溜息が出る。
「うちの家系は代々、魔族も魔物も嫌いだった!俺は前王の家系だぞ!少しは敬えよ!魔族より魔物より貴重な血筋だぞ!」
「君が前王の血筋なのは知っている。その思想を受け継いできたことも」
「なら!新通貨制度がうちにどんな不利益を被ったか知っているか!?大暴落だよ!土地も!通貨も!何もかも!おかげでどんなに貧乏になったことか!」
移行制度の弊害か。
これには僕も前々から頭を悩ませていた。
差別主義は容易には無くならない。
前王の派閥には、こうして現制度に不満を持つ者がいるだろう。
けれど、彼は盗むという犯罪を犯して自分のしたことに反省の色もない。
「なら、君には理解を深めてもらうために通貨制度普及の強制労働をしてもらう。もちろん被害家族への補償だ。魔族と人間との共存の道を脅かしたことにより、魔族地区の再建奉仕もしてもらう」
魔族が人間に悪さをして共存の道を脅かした場合は、人間地区への強制労働が義務付けられている。
お互いが住むところを目にすることによって、人間も魔族も魔物を変わらないことを体感してもらうことが目的だ。
「前回の人間地区強制奉仕と同様ですな」
「あの時は三年で意識が変わった」
議員席からも声が聞こえる。
「過去の事例にもあるように、君にはそうしてもらう」
まだ騒つく議員席と傍聴席を見て、目が厳しくなる。
「裁決を取る。賛成のものは挙手を」
魔族と魔物側は全員から挙手が上がったが、人間側からも少数ながら挙手が上がった。
「過半数が賛成により、有罪とする」
僕もまだ変わりきれていない。
それでも。
「償いを通して、価値観を変えろ」
僕がそう言うと、今回の裁判は閉廷となった。
裁判が終わった後、しばらくは意見書が山のように届いた。
本当に、異種族間の共存は難しい。
けれど、一通ずつきちんと目を通して行く。
それが王として、今回の判決を下したものの責務だと思うし、みんなの意見をきちんと受け止めたかった。
「コーヒー飲むか?」
「ああ、頼む……」
しかし、本当に読んでいるだけで頭が痛くなる。
この世界がよくなることは本当にあるんだろうか。
僕は、ふと他国の動きが気になった。
他国はどうなんだろう。
側にいた老魔族が悪魔がコーヒーを持ってくるのと一緒にケーキまで持ってきてくれた。
「ありがとう。二人とも」
他国は上手くいっているんだろうか。
僕は老魔族に頼んだ。
「すまないが、他国について纏めてくれないか?他の国がどうやって魔族と魔物と接しているか知りたい」
「かしこまりました」
いつものように、冷静に恭しく頭を下げて老魔族は執務室から出ていった。
「これで、この国より悲惨な国があったらどうするんだ?」
「その時は、和解を進言させてもらうさ。それより、異種族間の共存が出来ている国を真似したい。この国をもっとよくするために」
悪魔は眩しそうに僕を見た。
「すっかり勇者様で魔王様だな。でも、忘れるなよ。お前は俺の半身だってことを」
それが寂しさから来る台詞なのは分かっていた。
まったくこの悪魔は。
「あまちゃんなのはどっちなんだか」
そう言って、悪魔のコーヒーを飲んだ。
今日も美味しい。
ケーキもとても美味しかった。
僕はまだ幸せなのかもしれない。
こうして優しいみんなに囲まれて、美味しいものを食べて、悪魔は甘言を吐いてくる。
こんな時間があるから、まだ踏みとどまれているのかもしれない。
「僕は、まだまだ世界を知らなきゃいけないな」
もっと悲惨な国があるなら助けるべきだし、内政が落ち着いてきた今これからは国交にも力を入れなければいけない。
「これからも忙しくなるぞ」
僕はこれからの未来に向けて、目を輝かせた。
未来が明るいものである保証はどこにもないけれど。




