王冠
その日はお開きにして、それぞれの野営の準備をした。
少し遠目だったけれど、人間がテントを立てられず困っているところを魔族が力一杯ペグを打ち立てていた。
人間は恐る恐る感謝して、魔族は笑っていた。
胸に熱いものが込み上げる。
そうだよ。僕の作りたかった世界はこういうものなんだよ。
アズガンダルしか国を知らないけれど、もしかしたら魔族や魔物と人間が手を取り合う国が他にもあるかもしれない。
僕達も王城へ一度戻ることにした。
扉を開いて野営が間に合わないもの達を迎え入れるために。
そこには神がいらっしゃった。
「言葉を尽くして結果がこれですか」
「そうです。言葉は尽くせば通じることもあるのです」
僕が言葉を尽くして和解したと思ったのに、何度も人間と魔族と魔物は争いをやめなかった。
それは何度リセットされても変わらなかった。
「あなたは現在の最良の人類です。その人類が作る世界を見守るとは言いました。ですが、結果は私の作る世界と変わらないまま、幾度となく両種族とも争いをやめない世界が続きました」
「……そうでしたね」
「世界をリセットするのはしばらくやめます」
神の言葉に驚いた。
都合が悪くなるとすぐにリセットするあの神が!
「本当ですか!?」
「創造物同士が、ようやく手を取り合おうとするのです。しばらくは見守りましょう」
しばらく、か。
そのしばらくはいつまでなんだろう。
考えていると球体が近付いて来た。
「あなたも私の大切な創造物です」
「え?」
「悪魔、あなたもです」
悪魔は不貞腐れたように言った。
「嬉しくねぇ」
「産まれる前から見守ってきました。すべてのものを。私は私の創作物を愛している。その結末が争いばかり。それでは、あまりではありませんか」
心なしか声が震えている気がした。
初めて神を身近に感じる。
「神よ、あなたは……すべてを愛していらっしゃるのですか?」
「もう一度答えましょう。自分の創作物を愛さないものがいるのですか」
僕は答えられなかった。
そうだ。以前も神は愛していると仰った。
「……神よ、僕もあなたの創造物なのでしょうか?」
「その通りです」
僕は、神に愛されていたのか。
けれど疑問はある。
「私に自由はありますか?愛しているなら、なぜリセットするのですか?」
「愛しているから、完璧を求めます。すべてのものは自由で、不自由です」
「それは、あなたの手のひらの上ということでしょうか?」
それでも妥協はされたんだろうが。
どこまでも平行線な神と僕の思想。
「あなたの影響です」
「それは、あなたにとっていい影響でしたか?」
「分かりません。ですが、私は過去には感じなかった悲しみというものを感じます」
神が悲しみを?
「嘘くせぇ」
「悪魔!黙って!」
神が人間らしい心を持っていらっしゃる。
これは、神とも分かり合えるのでは?
僕がそう思っていると、神が続けた。
「愛しているからこそ、救えないものは消し、腐る前に剪定する。それが創造主の責任です。あなたは愛していると言いながら、切れない」
「当然です。僕はみんなを守りたい。それはずっと変わらない」
「では、見届けましょう。あなたの世界を。しかし、忘れないでください。あなた方が争いを始めた時、私はまた現れます」
そう言い残して神は消えた。
「すぐに言いたいことだけ言って消えやがる」
「神だしなぁ」
僕が苦笑するも、悪魔は納得がいかない様子だったけれど、神の本心に触れた気がして僕は嬉しかった。
神は愛していらっしゃる。
僕も、悪魔も、人間も、魔族も、魔物も。
愛し方は僕とは違うけれど、それは仕方がない。
生きているものすべて、愛し方は違うから。
「……神とも、いつかコーヒーが飲めるといいな」
「あいつは甘党だからな。コーヒーなんて飲まんだろう」
「そうなの!?」
思わぬ神の側面に、なんだか笑い出してしまった。
おっと、こうしちゃいられない。
家を無くしたもの達を招き入れなきゃ。
「急ごう、悪魔」
「そうだな」
そう言った割にはのんびりとした足取りに、思わず怒鳴ってしまう。
その声を聞いたもの達は、思ったとか。
「王も、本当に人間なんだなぁ」
それを聞いた時、僕はまた笑ってしまった。
そうだよ、僕は人間なんだよ。
街の再建に数年掛かったけれど、その間に人間と魔族と魔物は次第に打ち解けあうようになっていった。
僕も朝から晩まで働く。
しばらくして、王冠はまた僕の頭上で輝いた。
あの子が乗せてくれた。
僕は今度こそ僕の選択が正しかったと言えるかもしれない。
少し汚れた王冠が誇らしい。
僕はまだ勇者で魔王で悪魔の半身でいいらしいのがなにより嬉しかった。
「みんな、優しいなぁ」
少し泣いてしまったのを悪魔に揶揄われる。
でも、この重みに似合う人物になりたい。
そう思った。
あの子も笑っている。
この世界を救って来てよかった。
みんなを守れるなんて、僕にはまだ夢の夢だけれど、目標は高い方がいい。
僕は、僕達は僕達の力で世界をみんなを守る。
そう決めたから。
僕一人だけの力じゃ無理だ。
みんなで、この国を作ろう。
「みんな、これからもよろしくお願いします!」
拍手喝采。
人間も、魔族も、魔物も、こっそりと悪魔も。
割れんばかりの拍手で迎え入れられて、僕は今度こそ胸を張って立てた。




