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悪魔の甘言、勇者の選択  作者: 千子


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神というもの

人間の説得が大多数済んだところで魔族や魔物の説得を始めた。

伝達力の高い、移動の速い鳥類の魔物や魔族を相手に話を始めた。

彼等は賢い。

僕の意図を感じ取って、すぐに各地に散らばったみんなに伝えてくれた。

少しずつ、魔族や魔物の態度も軟化していった。

ここにくるまで数年経った。

これまでの数十年より、濃い数年だった。

でも、隣に悪魔がいて苦悩を共有してくれる。

それだけでも救いだった。

「みんな、分かってくれると良いな」

「そうだね」

また、手を取り合えたら良いな。

何度もリセットされたからか、どうしたら良いのか分かってきた。

だから、平気だと信じたい。

このまま、また人間と魔族の仲を繋げたい。

夜空に向かって願った。

「やはりあなたは最良の人間ですね」

「神……」

窓辺から神の端末の球体が入ってきた。

「両種族の仲を取り持とうとするなんて。あなたは神になり選別する側の人間です」

「それは僕が選びたい未来じゃない」

また球体が突然消える。

都合が悪くなるといつもこうだ。

そんな中、事件が起きた。

和解出来たと思っていた貴族の子息が魔物を殺した。

しかも遊びで。

まだ幼い子供の魔物だった。

貴族の両親は隠蔽に奮闘したため気付くのが遅くなった。

「なんで……」

分かってくれたと思ったのに。

絶望に肩を落として俯く僕に悪魔は何も言わずそばにいてくれた。

どう裁くべきか考えていると、殺された魔物の親が会いに来た。

「王は我等を守ると仰った」

「……そうだね、ごめん」

「我等は、裁きを望みます」

「……うん。分かっている」

「王よ、その御言葉、忘れないでください」

そう言って魔物の親は帰って行った。

僕はどうすべきなのか。

ここで貴族を処分すれば人間の反感はまた戻る。

でも、処分しなければ魔族や魔物の反感を買う。

正しさを行うなら裁くべきだ。

でも、僕は子供の更生を願いたい。

殺された魔物の子の死も痛ましい。

一人で考えて数日が経ち、憔悴した頃。

神の御言葉が聞こえた。

「……最良の人類は、この世界では難しいのかもしれません」

「ならばどうするのですか?」

「あなたに選択させます。人間を消すか、魔族と魔物を消すか、選びなさい」

「何を仰っているのですか!?」

思わず玉座から立ち上がった。

「あなたに選択させます」

僕は静かに宣言した。

「どちらも消さない。消すなら、あなたを消す」

それが僕の選択だ。

それから、貴族の一家を法により裁いた。

法を改正しておいてよかった。

……人間は、変わらないのだろうか。

何度リセットされても人間は魔族や魔物を消費する。

残虐に痛めつける。

今度は子供ですら遊びで殺す。

本当に生きていていい存在なんだろうか。

「大丈夫か?」

あまりに顔色が悪かったんだろう、悪魔が聞いてきた。

「大丈夫だよ」

大丈夫にならなきゃいけない。

僕は、勇者で魔王で悪魔の半身なんだから。

でも、裁いてしまった。

神のように。

僕はそれが怖かった。

あの無慈悲な神のようになることが。

これまでの人生で何度も選択したことに後悔はなかったはずなのに、生まれて初めて後悔した。

もっといい方法があったはずじゃないのか。

誰もが幸せになれる道があったはずなのでは?

考えれば考えるほど憂鬱になる。

がらんどうの玉座に一人で座って何になるのか。

僕はどうしたいのか。

考えても分からない。

もう、何も選びたくはなかった。

僕は思い切って悪魔にこの苦悩を告白した。

誰かに分かってもらいたかった。

悪魔なら、なにか僕に救いを与えてくれるんじゃないか、そう思っていた。

でも、悪魔は違った。

「選びたくないなら選ばなければいい」

「そうはいかない。それは責任から逃げることだ」

僕は首を横に振った。

「このまま選択し続けたら、神のようになってしまう。僕はそれが怖い」

「神のように、か。今でも神のように崇められているじゃないか」

なんでこんなことを言うんだろう。

僕は悪魔を信じられないものでも見るかのように見てしまった。

悪魔はそれでも嘲る。

「勇者で魔王で悪魔の半身。そして神か。偉くなったよな、お前も」

「なんでそんなことを言うんだよ」

「……俺を置いていくなよ。神になんてなるなよ」

悪魔が初めて弱音を吐いた。

僕は今度こそ信じられないものを見てしまったのかもしれない。

「お前が神の半身になるのは許せない」

「馬鹿だな。そんなものになる気はないよ。僕はお前だけの半身だよ」

指輪を見せる。

何度神にリセットされてもずっとそばにいてくれた指輪。

一度は無くなってしまったけれど、また悪魔が嵌めてくれた指輪。

僕がひとりぼっちになっても心が折れなかったのはこの指輪があったからだった。

魂を分けた半身。

その存在がいるって分かっていたから、頑張れた。

多分、これからも頑張れるだろう。

「……選択し続けるよ。神とは違った方法で」

僕は僕の選択に責任を持とう。

今回のことも、僕の甘さが招いたことだ。

「今回のことがどんな結末になっても、お前はついてきてくれるか?」

「もちろんだろ。どれだけの時間を過ごしてきたと思っているんだ」

悪魔が笑った。

いつもの弧を描く笑い方じゃなかった。

悪魔となら、どんな選択でも出来るだろう。

指輪が焼け付くように熱い。

この熱が心地のいい熱さになったのはいつ頃からだろう。

でも、今回の顛末は僕が考えていたよりもずっと重かった。

城の外で鐘が鳴り響き、遠くで炎が上がるのが見え、血の匂いが風に乗った。

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