いつものコーヒー
神の側に悪魔がいる。
そんな事実が噂されるようになったのはいつ頃からか。
人間の不満は溜まっていき悪魔は安堵した。
とうとう尋ねられた。
「王よ、あなたは何者なのですか?」
「僕は勇者で魔王で悪魔の半身さ」
ようやく告げられた。
隣にいる悪魔を見ると、いつものように口が弧を描く。
でも、時々神の御言葉が僕を誘惑する。
決まって悪魔が側にいない時に。
「あなたは孤独です」
「私だけはあなたを理解できます」
「あなたは特別です」
……煩い。
「あなたは私の最良です」
「最良とは何ですか?」
神は答える。
「私が決めます」
その言葉に僕は呆れる。
「あなたは最良を作りたいんじゃない。あなたに従う存在を作りたいだけだ」
神は黙る。
「何度もリセットし、感情を奪い記憶を無くさせ選択を奪う。あなたは失敗が怖いだけだ」
「そんなことはありません」
その言葉は揺れていた。
「あなたは神ではない。ただの臆病者だ」
この長い戦いで分かった。
神は完璧ではない。
「なら、あなたは神になれるのですか?」
「僕は神になりません」
また同じ問答だ。
だが、神の声は以前より近い。
「私は恐れています。だから最良を作ろうとするのです。滅びを見たくないから」
「……神よ、あなたは世界を愛しているのですか?」
「自分の創作物を愛さないものがいるのですか」
僕は瞬いた。
神はこの世界を所有物扱いしていたのに、いつの間にか人間染みたことを言うようになった。
「あなたの影響です」
「僕の?」
「あなたも神と同化しつつある。神と神は繋がります」
それは嫌だな。
思わず本音が出た。
「僕は望みません」
「ですがそれが運命です」
僕は溜息を吐いた。
こんなのが僕達の世界の神なんて。
「勇者様、ちょっといいか」
「悪魔」
悪魔が来ると神の御言葉は聞こえなくなる。
僕は少し安堵しながら悪魔に尋ねる。
「なんだい?」
「暴動が起きそうだ」
「……とうとうか」
僕の力及ばすだ。
人間と魔族の仲はそんな簡単に良好にはいかない。
ただでさえ不安定な状態だったのに、神と崇められた僕に悪魔がついたことで混乱は大きくなった。
結果がこれだ。
「先に手を出しそうなのは?」
「人間側だな。魔族や魔物はもうこの国にはいないから」
「そうだよな……」
魔族や魔物は人間を見限って国から去った。
僕は、みんなを守りたいと言いながら何も守れていない。
神よ、こんな僕が最良なのでしょうか。
二つの種族を纏められもしない、せめて人間だけでも治めたいけれど、悪魔に恐れ慄いて誰もが恐怖する。
神と呼ばれたり悪魔憑きと呼ばれたり、最近は忙しい。
人間が嫌になってくる。
けれど、僕は王だ。
人間も魔族も魔物も守る義務と責任がある。
なにより僕がそうしたい。
「いっそ、一部の貴族達にだけでも催眠をかけてみるか?」
「そんなことも出来るのか!?……いや、それはだめだ。僕の力でなんとかしないと」
僕の力で、みんなを守る。
ずっとそう決めてきたじゃないか。
人間も、分け隔てなく。
それが僕の理想だ。
貫き通したい。
貫き通す。
勇者で魔王になった時に決めたじゃないか。
そして今では悪魔の半身でもある。
……神にはなりたくない。
「どうすべきかな」
「説得して通じそうもないぞ」
思わず腰の剣に手を掛ける。
いや、これは一番駄目だ。
すべてを守るために、まずは小さなことから始めよう。
僕は貴族一人一人と話すことから始めた。
王の面会を拒む貴族はいない。
そのことを利用して、悪魔と共に言葉を尽くした。
悪魔は何もしていない気がするけれど。
少しずつ、話を聞いてくれる人が増えてきた。
そうしたら今度は民衆だ。
街に降りて演説を始めた。
「魔族や魔物が、みんなに害をなしたことがあったか?」
答えられる者はいなかった。
それはそうだ。
だって誰も人間を傷つけていない。
過去に人間が魔族を傷つけたことはあったし、その逆もあった。
けれど僕が王になってからはそういうことは徹底してやめさせたし、法でも定めたから。
そうして言葉を尽くして貴族の半数以上が共存派になってくれた。
話せばわかってくれる。
僕は安心した。
それでも一部の貴族は納得がいかないみたいで、各地に散らばった魔族や魔物を討とうとしていた。
「……少し、疲れたな」
僕がそう言えば、悪魔は黙ってコーヒーを淹れてくれる。
悪魔のコーヒーは相変わらず美味しかった。




