出会い
神が告げる。
「最良の人類が誕生するまで、何度でもリセットするだけです」
「なら僕は何度でも選び直します」
俺たちのやりとりを悪魔が見ている。
「……お前は……、俺は、何を思い出せない?」
「悪魔。お前は僕を選べばいい」
そう言うと、悪魔は小さく笑った。
「……、俺はなんで今笑った?」
悪魔も自分の感情が分からないようだ。
「俺はなんで勇者様を殺されたのに悲しくない?なんでお前が気になる?俺は何も思い出さない?」
混乱してこめかみを抑える悪魔を一瞥して、また神に問うた。
「これが、あなたの望んだ最良の人類の結末です。あなたでは最良の人類は作れない」
そう言うと、またリセットされる感覚があった。
この困った神様は、言葉に詰まるとすぐに実力行使だ。
今度は何を奪われる?
覚悟して瞳を開けると、子供の僕だった。
子供の頃に戻るのは珍しくない。
けれど今回は違った。
指輪がなかった。
出会う前か?
……困った。
僕は悪魔との初対面を覚えていない。
どこへ行けばいいのか分からない。
あれはいつの頃だ。
もしかして、悪魔はもう堕天して悪魔との覇権争いに負けて地上に堕ちた後か?
分からない。
何も思い出せない。
早く、早くしないと。
今度は指輪もないんだ。
指輪があった指を撫でる。
そこにはなんの感触もなかった。
虚無感が僕を襲う。
膝から崩れ落ちる。
そこで、母がやってきた。
幼い頃に亡くなった母だ。
「母さん……」
「どこに行っていたの!?探したのよ。また、魔の森へ行ったんじゃないでしょうね」
そうだ!魔の森だ!
あそこで僕と悪魔は出会った!
僕は母が止めるのも聞かずに走り出した。
魔の森の奥の泉。
あそこは、そうだ。
僕達の魔王城が出来る場所!
なんで忘れていたんだろう。
すべてあそこから始まったんじゃないか。
僕の村が、両親が、当時の魔王に滅ぼされてあそこに魔王城が出来た。
僕は急いで走った。
早く、早く。
心臓が早鐘を打つ。
泉までもう少し、そこで人影を見た。
悪魔だ!
泉の近くの木に寄り切って座り込んでいる。
僕はそっと近付いた。
「……ガキ、何の用だ。殺されたくなかったら失せろ」
悪魔が小さく炎を出す。
強がっちゃって。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
僕は子供らしく振る舞った。
「お前の魂があるのなら、元気になるかもな」
「なら、僕の魂をあげるよ」
悪魔は目を見開いた。
「何を言っているんだ?」
「お兄ちゃん一人じゃ寂しいでしょう?」
僕は微笑んだ。
「お兄ちゃんに元気になってほしいんだ」
悪魔は瞳を伏せて逡巡した。
ほら、早く。
「お兄ちゃん?」
駄目押しで声を掛けたら悪魔は手を翳して僕の心臓に手を置いた。
何かがなくなる感覚がした。
くらりとして倒れ込む僕を悪魔が抱え込む。
「お前、なんで俺を助けた?」
「僕、大きくなったら勇者様になってみんなを助けたいんだ」
大きくなった僕は勇者だけじゃなくて魔王もやっているけれど。
「勇者様か。それはいいな。じゃあ、今から俺の勇者様はお前だけだぜ」
そう言って、僕達は別れた。
戻ったら両親に散々怒られたのも懐かしくて泣いてしまったら、両親が慌てて謝ってくれた。
分かっているよ。
僕が心配だったんだよね。
翌日もこっそりと悪魔がいないか泉に行くと、そこにはもう何もなかった。
残念がる僕とは裏腹に背後から悲鳴が聞こえて煙が村の方から見えた。
そうだ。なんで忘れていたんだろう。
今日は魔王の手下が村を滅ぼした日。
僕は魔の森へ一人で行っていて難を逃れた。
慌てて村へ戻るとそこでは両親の遺体があった。
何度体験しても両親の死は僕を苦しめ、唇を戦慄かせる。
「父さん、母さん……!」
それでも、その場から離れるしかなかった。
生き残って勇者になって悪魔に会うために。
今度こそ、選び直すためにも。




