知りすぎている見知らぬ悪魔
それからも探し続けては神に問い、リセットが起きてはやり直していた。
ただ、悪魔が僕の隣にいないだけ。
自分の魂の半分がいないというのは、気が狂いそうだった。
それでも前を向いて歩かなくてはいけない。
だって、悪魔はきっと泣いていない。
僕ばかりが泣くなんて、なんだかずるいじゃないか。
変な意地が僕の感情を邪魔する。
けれど、それでいいのかもしれない。
悪魔は泣かない。
きっと過保護な悪魔は僕が泣いていると思っているんだ。
だから再会した時は笑顔で迎え入れてやるんだ。
……多分、出来るはずさ。
それくらいの見栄は張らせてくれよ、悪魔。
それからも幾度となく季節は巡り、戻され、指輪の熱だけが嘘じゃなかった。
悪魔はまだいる。
この世界にいるのなら、迎えに行かなきゃ。
初めて悪魔と契約した場所には何百回と訪れた。
それでも悪魔は姿を現さない。
一体どこにいるのか……。
段々と虚になる僕に、とうとうあの子が進言した。
「もう、いいんじゃありませんか?」
もういいってなんだ。
僕の魂の半分だぞ。思わず怒鳴り散らしそうになってぐっと堪えた。
この気持ちは、感覚は魂の半分を失ったものにしか分からないだろう。
僕は務めて平然と言った。
「僕のものが僕に還るのは当然のことだろう」
あの子は腑に落ちないといった態度を隠さなかった。
「そういえば、こんな噂をご存知ですか?あなたを倒そうとする輩がいるそうです。人間と魔族の共存なんておかしいって。あなたを諸悪の根源みたいに言うそうです」
「そう」
「その者は、悪魔を名乗る男を連れているそうです」
俯いていた顔を一気に上げてあの子を見る。
「その者は勇者を名乗っています」
真剣な眼差しだった。
神の新しい差金か?
新しい勇者……この子がまた勇者をやめて僕のそばにいるから新しい勇者を選定したのか?
いや、それよりも悪魔を名乗る男……。
「その勇者はどこにいる?」
「魔物を退治しようとしてあちこちの集落に出没しています。今度は南の集落に向かっているとか。申し訳ありません。悪魔探しをしているあなたに集中してほしくてあなたの耳に入れたくなかったのですが、僕達だけでの対処が難しくなってきて……」
申し訳なさそうに言われると、怒る気にもなれない。
それに、真偽の程は定かじゃないけれど、悪魔を名乗る男が気になる。
「僕が行こう」
「悪魔を名乗る男が、あなたの求める悪魔じゃないかもしれませんよ」
「それでも、希望があるなら僕はそれに賭けるさ」
そう言って、僕は身支度を整えると南の魔物たちの集落へと馬を走らせた。
早く、早く。
あの悪魔でありますように。
でも、それならなんで僕に会いに来ない?
新しい勇者のそばにいる?
嫌な疑問に冷や汗が出て、手綱を握る手に力が入る。
南の集落にようやく辿り着いた時には、戦火が登っていた。
「無事なものはいるか!?」
馬から降りて魔物や魔族の手当をして回る。
新しい勇者達はもういないみたいだった。
けれど、指輪が熱い。
悪魔の気配を感じる。
やっぱりお前なのか、悪魔。
なんで僕の元に来ない。
別の人間を『勇者様』と呼ぶのか?
……そんなの、許せない。
お前が言い始めたんだ。
俺の勇者様はお前だけだって。
なのに、なんで。
ぐるぐると疑念が生じては消えていく。
弔いの墓を作って埋めていく作業が一段落して、僕は改めて惨状を見た。
これが、勇者のすることだろうか。
いや、魔王を倒して世界から必要とされなくなって悪魔と契約する前の僕ならしていたかもしれない。
異質なものを悪と決めつけて、倒して神の御言葉を胸に前へ進んだ。
それが今はどうだ。
僕は共存を望んだのに、みんなを守ると決めたのに、悪魔にかまけてみんなを守れなかった。
あの子達に負担を強いてしまった。
反省は城へ帰ってからだ。
生き残ったみんなに謝罪して、また馬に乗って城へ戻った。
そこにはいつもの風景があると思ったのに、あの子がおかえりなさいと言ってくれると思ったのに、あの子は悪魔に殺されるところだった。
火がつく瞬間、制止の言葉は今までで一番大きなものだったのに、悪魔に慈悲はなくあの子は業火に燃えて断末魔を上げて灰になる。
悪魔があの子を殺した悲しみか、あの子が悪魔に殺された悲しみか、僕には分からなかったけれど、僕は泣かないと決めていたのに瞳から涙が溢れ出た。
「お前が勇者で魔王で悪魔の半身ってやつか?」
この指輪の熱さが物語る。
「うちの勇者様とどっちが強いかな」
「……悪魔」
「そうだぜ。よく分かったな」
分かっているさ、長い間、ずっとそばにいてくれただろう?
なのに、なんで何も知らないような顔をして新しい『勇者様』の隣にいるんだ。
僕は憎悪でどうにかなりそうだった。
新しい勇者が何かを言っている。
そんなこと、どうでもよかった。
ただ、知りすぎている見知らぬ悪魔を見ていた。




