何者
僕はそれから考えた。
どうしたら神の手のひらから脱することが出来るのか。
そもそもこの世界で生きていること自体が神の箱庭にいることなんだろう。
「どう思う?悪魔」
「俺は勇者様に賭けるぜ」
博打の話をしているんじゃない。
でも、その悪魔の軽口が今は助かった。
悪魔は僕の救いでもあった。
「……ありがとう」
今回のことをみんなに話すかどうか考えていた。
でも、不要な不安を掛けるわけにはいかない。
考えて、考えて、考え抜いて、もう一度神と対話する機会を悪魔に作ってもらうことにした。
「頼むよ、悪魔」
「……やだね。あいつの考えは生半可な考えをぶつけたところで変わらない。お前がどう思おうと、神は神のまま、地上という箱庭で暮らす人間を最良の人類にするために作ろうとしている」
その言葉に僕は目を伏せた。
あの時の怒りが思い出されて握った拳が震える。
けれど、それ以前に僕は分からなくなっていた。
「僕は、何者になれるんだろうな」
神との対話の時からずっと考えていた。
僕は、勇者になったのも、魔王になったのも、悪魔の半身になったのも、全部自分の選択のはずだった。
でも、それが覆された。
「少なくとも、俺にとったら勇者様だぜ」
僕は小さく笑った。
「ずっと言っているけどさ、僕は魔王で勇者で悪魔の半身なのは自認しているけどさ、お前はなんでそんなに僕を勇者様って呼ぶんだよ」
本当に、いつだって諦めた夢を思い出させてくれるのはお前だけだよ、悪魔。
僕が尋ねると、悪魔は輝かしい昔を眩しそうに語った。
「お前が子供の頃に言ったんだろう。大きくなったら勇者様になるって。で、実際に大きくなったお前を見つけ出して会いに行ってみたら本当に勇者様になってたわけだ」
「勇者様になる、か。確かに子供の頃の夢はそうだったな」
僕も懐かしい輝きに目を細める。
「それからだぜ、俺の勇者様はお前だけだよ」
「……そっか」
でも、きっと僕はあの頃夢見ていた勇者様にはなれなかった。
魔王を倒しても世の中から疎まれ憎み、悪魔と契約してしまった僕は、あの頃の輝きを失っていたのだろう。
「勇者様になる」と言ったあの日、誰かを踏み台にする勇者になるとは思っていなかった。
でも、それが悪魔の選択ならば、神を裏切った悪魔の言葉ならば信じられる。
「僕は勇者だ。そして魔族を率いる魔王だ。もちろん、君の魂を分けた半身でもある」
何を迷っていたんだろう。
例え神の手のひらの上だろうと、僕の選択は僕のものだ。
神が見続けた地上の出来事だとしても、この想いは嘘じゃない。
「悪魔、頼む。もう一度神と対話させてくれ」
「勝てる保証は?」
「ない」
言い切る僕に悪魔が笑った。
「だからお前のそういうところ、好きだぜ。勇者様」
そう言うと、半月は待てと言われた。
僕も神から逃れる術を考えなくては。
……いざとなったら。
腰の剣を握るも血の匂いを思い出してすぐに手放してしまう。
……こんなことじゃだめだ。
勝てる見込みはない。
思想でも、剣でも。
そもそも神に挑んだものがいるのだろうか。
僕が初めての存在かもしれないな。
「……あの子に剣の稽古をしてもらおう」
いざという時に備えて。
これが杞憂に終わることを僕は願っている。
それからは悪魔以外には何も言えないまま剣の稽古をして、話し合う内容を整理して、考えて過ごした。
悪魔は悪魔でいないことが多かった。
神と会うのはやはり難しいことなんだろう。
けれど、僕は僕の道が正しいと信じたい。示したい。そのために神と対話をしたい。
神よ、あなたが見捨てた者達が歩む道をあなたはどう見ているのでしょうか。
……やはり、箱庭の出来事としか思わないのでしょうか。
でもね、神よ。
箱庭に収まらないものもあるんですよ。
僕と悪魔は示し合わせたかのように、別の場所にいたのに同時に笑った。
指輪が熱く、僕はそっと口付けた。




