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悪魔の甘言、勇者の選択  作者: 千子


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アフタヌーンティーを君と

城が出来たとはいえ、落ち着かないので僕達の拠点は作った家のままだった。

この城は、人間達が怯える象徴になってしまっているから、余計に住みづらい。

雰囲気も僕が想像していた晴れやかさがない。

なんかこう、本当に魔王が住んでいるような雰囲気だった。

でも、城が出来て良かったこともある。

僕に協力的だった魔族が戻ってきたことだ。

頭を下げられて何度も謝罪を受けた。

逃げ出して申し訳ないと。

それはこちらのセリフだ。

守れなくて申し訳なかった。

お互いが謝罪し合ううちに、なんだかおかしくなってどちらともなく笑ってしまった。

僕にはまだ、守れるみんながいる。

今度こそ、守りたいみんながいる。

それが分かっただけで充分だった。

「それで、この城はどうしたんですか?魔王様。散々ボロボロになったし場所も違う。再建したんですかい」

「ああ。悪魔が建てた」

「悪魔様が!?」

どよめきが場を騒つかせる。

「いやぁ、すごいよな。悪魔って」

「はぁ、すごいなんてもんじゃないと思いますけど」

和やかに話すのは外でのアフタヌーンティーだった。

うん。似合わない。

魔王と魔族とアフタヌーンティー。

まるで本当に王になったかのようだった。

いや、みんなを守りたい、前王の代わりに率いたいと思った時から王だったのかもしれない。

僕も自称しているし。

「僕は今ね、勇者時々魔王様で悪魔の半身として生活している」

「は、はぁ」

みんなはついていけないみたいだ。

僕も何を言っているんだって思う。

「人生って何が起こるか分からないね」

「そうですねぇ。まさか、魔王様とこうしてまた再会してお茶まで出来るなんて思いもしませんでした」

「僕もだよ。よく分かったね」

アフタヌーンティーらしく、今日はコーヒーじゃなくて紅茶と麓の村で買ってきたお菓子をテーブルに並べてある。

……僕もお菓子作りまで頑張ってみようかな。

「魔王様の噂は各地に広まっておりました。だからこそ、我々は集まって再度魔王様の元で一念発起しようと馳せ参じたんです」

「そっか……。ありがとう」

嬉しくなって、一匹ずつ抱き締めたい。

けど、さすがに人数が多すぎる。

「城にみんなで住むといい」

「いえいえ!魔王様が住んでいらっしゃらないのに我等だけで住むなんて滅相もない!我等は野宿しますので!」

「そんな。そういうわけにはいかないよ」

お互い折れなかった。

先に折れたのは僕だった。

「分かった。城に住むよ、住む」

「よっし!決まったら引っ越し準備ですね!」

「ええ!?いいよ、そんなに荷物なんてないし」

そこで悪魔が初めて口を開いた。

「いいじゃねぇか。やってもらえよ」

「お前は面倒なだけだろう!」

そうして、みんなと纏めて引っ越しをした。

とはいえ、すぐ隣の民家から城へ、二人分の最小限の荷物しかなかったので一往復で済んだ。

がらんどうになった民家を見て、ここにあの子達を住まわせるのもいいかもしれないな、なんてまた悪魔に聞かれたら呆れられることを思い描く。

そして、彼らはまたやって来た。

「やあ!ようこそ!」

僕が笑顔で城日招き入れると、あの子達がぽかんと口を開けて呆けている。

「こっちこっち、中庭もあるんだよ」

「いや、えっと、勇者様……いや、魔王。これは?」

「何って城だよ。魔王城」

「こ、こんな立派な城が数日で建てるはずがない!」

騒つくあの子達に悪魔を紹介する。

「じゃーん!みんな悪魔のおかげでしたー!」

そしてぞろぞろと魔族のみんなが出て来た。

あの子達は囲まれたと焦っていたが、こちらに敵対する気持ちはない。

「さあ!今日は戦いはなしでアフタヌーンティーでもしようか」

数に勝てないと悟ったのか、こちらに敵意がないのが伝わったのか、この子達は素直について来てくれた。

「最近はお菓子作りにも挑戦していてね、お口に合えばいいんだけれど」

「いや、魔王の作る食事もお菓子も美味しかった。その点は信頼している」

「そっか、よかった」

そして花々が咲き乱れる中庭へと案内した。

あの子達をもてなして、話し合いがしたかった。

本当にそれだけだった。

「……目的は、なんですか?」

「君とちゃんと話がしたいんだ。僕は和平を望む。魔族も人間も誰も悲しまない、そんな未来を夢見ている。いいや、夢じゃない。僕が王として実現してみせる」

言い切ると、あの子達は息を呑んだ。

「そんな、アズガンダルの王と言っていることが違う」

「ああ、あの男は昔から自分の利益ばかり。金で動けない魔族を買い取って奴隷にしたり玩具にしたりしている。僕はそれも解放したい。腐り切った王侯貴族からみんなを解放したい」

「まさか!王達が!?」

驚き狼狽えるこの子達は、本当に何も知らないんだろう。

でも、無知は罪だ。

僕も知らないというだけで罪を犯して来た。

「君達は知らなきゃいけないことがたくさんある。まずはそこから始めよう」

僕の声のトーンが変わったのが分かったのか、あの子達は背筋を正す。

うん。みんな良い子だ。

「まずはなにから話そうかな。……そうだな、僕が神の御信託を受けて勇者になってからかな。ちょっと長くなるけど、ちゃんと聞いていてね」

そう前振りをして、僕は勇者になってからかな今までのことを語り出した。

たくさん救ったことも、たくさん殺したことも、悪魔と契約したことも、世界を憎んだことがあることも、今はみんなを守りたいと願っていることも、全部話した。

「大体はこんなところかな」

すっかり冷めた紅茶を飲んで、クッキーをひとつまみ。

僕は剣を振るうだけじゃなくて料理の才能もあったのかもしれない。

僕が満足していると、あの子が口を開いた。

「事情は分かりました。でも、だからといって、あなたがすべてを背負う必要はないんじゃないでしょうか?」

手に汗を握っていたのをナプキンで拭う仕草をしていた。

そんなに緊張しなくて良いのに。

「でも、誰かがやったほうがいいんだ。それなら僕がやる。僕達がやる」

「……あなたと、悪魔でですか?」

「そう。それが僕の選択」

もう陽も傾きかけていた。

「もうそろそろお開きにしよう。話はまた今度ね」

そう言うと、魔族に出入り口まで送らせて、僕は息をついた。

ずっと黙って側に居てくれた悪魔が近寄ってくる。

「お疲れさん」

「まだだよ。これは和平への第一歩さ」

その途方もない一歩をようやく踏み出せた。

それがなにより嬉しかった。

あの子達にも理解してくれるといいな。

そう思いながら、また冷めた紅茶を一口飲んだ。

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