新勇者との対決
久々に水晶を覗き込んだ。
見るたびに頭が割れるように痛むのに、やめられない。
物見の水晶。
悪魔がくれたもの。
あの小屋の火事から命懸けで守り抜いたもの。
この水晶を見ていると、最近頭が痛くなるが見るのをやめられない。
「あの子はどうしているだろう」
ぼんやりとした景色から、はっきりとしたものに変わる。
そこにはあの子とその仲間たちがいた。
「……大きくなったなぁ」
人間の世界では様々なことが起きたらしい。
反魔王派が人間に協力して僕を、魔王と悪魔を倒そうと画策したり、逃げ出していたアズガンタルの王が再び即位して民衆を煽って魔王退治に熱を入れていたり、あの子が勇者として洗礼を受けていたり。
まあ、僕を倒したいものばかりだ。
苦笑して水晶を見続ける。
あの子は洗礼を受けて再び強くなった。
洗礼は精神の問題だ。
「手強くなりそうだ」
「楽しそうだな」
「楽しいよ。僕を目指して、早くここまできてほしい。とは言っても、何の変哲もない家なんだけどね」
軽く笑うと、悪魔も笑った。
「新しい勇者達は数日内にここへ来るだろう」
「うん。そうだろうね。でも、まだこの子には迷いがある。迷いを断ち切らないと、僕達は倒せないのに」
悪魔が呆れた。
「一番迷っていた奴がよく言う」
「ははは」
悪魔が淹れてくれたコーヒーを受け取って笑う。
さて、あの子達が来たらどうしようかな。
水晶を見遣る。
この依存を悪魔は笑って見ていた。
そんな答えも決まらないまま、数日が過ぎた今日。
あの子が仲間を連れて家の前で戸惑っている。
うん。魔王城があると思ったのに民家があったら戸惑うよね。
仕方がないから剣を持って扉を開ける。
「君が勇者かい?」
分かっていながら尋ねる。
「あなたは!……本当に魔王になったんですか?人類の敵になったんですか?」
あの子が不安気に問い掛ける。
なんだか嬉しくなって久々に口角が上がる。
「なんで!勇者だったあなたが魔王になっているんですか!?魔族に脅かされているんですか!?それなら、俺が……!」
「ううん。違うよ。守るためにはこの世界には魔王が必要なんだ」
勇者は目を見開き、唇を振るわせた。
剣を持つ手も震えている。
「何を言っているんですか?」
「君も分かるよ」
僕が引くことはないと分かると、剣を構え直した。
「あなたはそれでいいんですか!?」
勇者が尋ねる。
それでも、僕は魔王でいる。
違う。
勇者時々魔王と悪魔の半身。
それが今の僕だ。
薄らと笑う僕から距離を取る。
うん。正しい判断だ。
「あなたは逃げているだけだ」
あの子が言葉を募る。
「守ると言いながら支配している。それは恐怖による平和だ。かりそめでしかない!」
「それでも、この世界に必要なことなら僕は喜んでこの身を捧げよう」
僕も剣を抜く。
「君は君の正しさで戦えばいい。僕は僕の正しさと大切なもののために戦う」
実力差はこの子にも分かるだろうに、剣を構えて突撃してくる。
家を壊されるわけにはいかないから少し前に出て応戦する。
「どうしたんだ?剣捌きが鈍っているよ」
「くっ!なんで、どうして憧れていたあなたが……!」
そこで悪魔が家から出てきて見物する。
観衆が増えたことに、この子も気付いたようだ。
「あなたを堕としたのはその悪魔だ!」
悪魔の瞳が一瞬伏せられる。
それも一瞬だけだったけれど、僕にはその気持ちが分かった。
指輪が熱いもの。
「僕は、あなたを助けに来ました!」
僕を、助けに?
おかしくて少し笑ってしまう。
全部僕の選択の末なのに。
「僕は悪魔と共にいることを選んだ。何も知らないのに口出ししないでくれないかい」
なあ、悪魔。
悪魔の方を見遣ると、小さく溜息を吐いた。
「……ああ。後悔はさせない」
悪魔の方にも覚悟はあるようだった。
「ねえ、君には共に地獄に堕ちる覚悟がある人はいるかい?」
「何を言ってるんですか?」
怪訝そうに尋ねられる。
うん、そうだよね。
悪魔の元へ行くと、指輪を撫でられた。
「それがお前の選択なら、魂の半身としてついていくまでさ」
「ありがとう」
僕達が微笑み合うと、あの子達は混乱したようだった。
「魂の半身?やっぱり、悪魔と契約したんですね……。人類の敵なら、滅ぼすしかない!」
覚悟を決めたあの子がこちらへ突撃してくる。
でも、遅い。
キィンと音がした時にはあの子の手から剣が弾き飛ばされて地面に転がり落ちていた。
「実力差はわかっていたはずだろう?」
「くっ!」
「僕達はここにいる。また挑みたくなったらおいで」
そう言うと、あの子達は落ちた剣を持って走り去っていった。
「さて、また来るかな?」
「来るんじゃないか?」
「そしたら今度はパーティーをしよう!せっかく尋ねてきてくれたのに味気なかったし」
悪魔は笑った。
「仰せのままに、勇者様」
大仰にお辞儀をして、恭しい態度を取る。
そんな茶番を演じながら、悪魔は本当に笑っていた。
「あんたはどこまで堕ちてくれるかな」
「どこまでも。君と一緒なら怖くない」




