襲撃
小屋が焼け落ちた灰の上で悪魔が言う。
「ほらな、理想郷なんて脆いんだ」
「だけど、何度だってやり直せばいいんだろう?」
僕と悪魔は不敵に笑い合った。
そして数日後。
「お前が存在する限り、争いは終わらない。お前が生きているだけで火種だ」
「つまりは」
「お前が生きているだけで罪だと思うだろう」
土を耕し、木を切り倒して小屋を再建している最中にする会話にしては真面目なものだった。
「そうは言われてもなぁ」
窓ガラスを嵌めながら、僕は悩む。
悪魔は相変わらず何もしない。
焚き火で沸かしたコーヒーを飲みながら悠々と喋っている。
村で仕入れた大量の砂糖を入れながら。
こいつにも働いてもらおうなんて、数年前から諦めている。
「まったく、悪魔ってのは呑気なもんだな」
そう言うと、窓がはめられた。
「僕もちょっと休憩するか」
すぐに悪魔がコーヒーを淹れてくれる。
こういうところがあるから憎めない。
「悪魔ってずるい」
「狡猾って言ってくれないか」
コーヒーを一口飲みながら、麓の村で買ってきた食料にまで手を出す。
「おい、食べるなら僕にもくれ」
「仕方がねぇなあ。勇者様は」
そう言うと、包みごと寄越された。
中に入っているパンはまだ温かい。
「美味いな、悪魔」
「まあまあだな」
その割にはよく食べるくせに。
そこで気配を感じた。
「悪魔」
「分かっている」
剣を持ち、気配がする方を見て声を掛ける。
「何者だ!」
すると先日見逃してしまった魔物が人間と魔族を引き連れてやってきた。
「本当に魔王だ」
「悪魔もいるぞ」
「だが、二人なら今こそこの人数ならやれる」
「元勇者といえど、魔族に寝返った裏切り者だ。遠慮なんていらねぇ!」
魔族と人間が口々に言う。
「これは……」
「お前達を退治するために一時的に手を組んだんだ」
……僕が望んだ、人間と悪魔が手を組む理想はこんなものじゃないのに。
みんな殺気立ってこちらをギラついた目で見ている。
指輪が光る。
「なあ、勇者様。世界を黙らせる方法なら、あるぞ?」
僕は首を振る。
「……違う。それじゃ、前と同じだ」
僕は真正面から対峙した。
「みんな、聞いてくれて!」
声を張り上げても、誰も聞いてくれない。
魔族と人間が手を組む僕の理想は、こんなものじゃない。
泣きたかった。
でも、泣くわけにはいかなかった。
手に持つ剣に力を込める。
「いくぞ、悪魔」
「いつでもいいぜ」
悪魔がうっすらと笑う。
この悪魔が戦うところを見るのは初めてだ。
だけれど、火をあんなに容易く消せるくらいなら、戦えるんだろう。
一人目の顔は覚えている。
二人目も。
三人目からは数えるのをやめた。
それから人間と魔族を何人に相手にしたかは覚えていない。
血のぬかるみに足元が取られる。
剣が重たい。
感情が削れていき、剣の重みと血の匂いだけが五感を刺激する。
悪魔は魔法を駆使して戦っていた。
気づけば、立っているのは僕らだけだった。
人間も、魔族も。
自分が一線超えた自覚はある。
……いや、本当に一線を越えたのは今じゃない。
この剣を手にとった時からだ。
「悪魔、これでもまだ僕を勇者様と言うのか?」
「ああ。もちろん。いつでもお前は俺の勇者様だぜ」
そんな軽口が今は救いだった。
「ありがとな」
血の匂いが濃く残る中、僕達は笑い合った。
そして血だらけの惨劇に住処を作る気がしなくて、新しい場所を探す。
先程までの場所の近くはだめだ。
新しい住処も泉の近くがいいな、と話し合いながらようやく見つけた泉の周辺を回って、開けた場所を見つけた僕達は、ここに新しい住処を作ることにした。
また土を耕し、また木を切り倒した。
血の匂いが消えるまで、働いた。
時折、麓の村で必要な品を購入して……ようやく家が完成した。
家、というか小屋なのだけれど、二度目は慣れたせいか小屋より上手く作れた気がするから家と呼ぶ。
今度は束の間の平和になりませんように。
そう願いを込めて作った。
「壊れても、また作ればいいかもしれないけれど、壊れたら辛いもんな」
新居に手を当てて一人呟いた。




