行き先
それから僕らは幾つかの村々を救い、人々から感謝され、恐れられた。
「可哀想な、勇者様!人々のためにどれだけ尽くしても、ちっとも感謝されない。いや、感謝はされても恐れられている。同じ人間だとは思われていない。ああ!可哀想な勇者様!」
「喧しいぞ、悪魔」
僕は悪魔に対して怒りを覚えた。
「俺は本当のことしか言っていないのに?」
「……うるさい」
そんなこと、僕が一番知っている。
歩きながら旅を進める。
目的があってないような旅だ。
最終的にどうしたらいいのか僕にも分からない。
「なあ、悪魔。僕はどうしたらいいと思う?」
「それは勇者様のお望みのままに」
悪魔が恭しく頭を下げる。
演技掛かったその態度に、余計に苛立つ。
それでも腹は空くもので、適当な岩に座って立ち寄った村で買った軽食を食べ始める。
そこでふと気になった。
「……悪魔に食事は要らないのか?」
「俺はもう満腹なんだよ」
にやりといつものように笑う悪魔。
「ふぅん」
悪魔の仕組みはよくは分からないが、悪魔というのは不思議なものだ。
「それで、旅の目的だっけか?」
悪魔が僕が座る岩に寄り掛かってきた。
「お前、言っていたじゃないか。『魔王も勇者もいらない、力で選別されない、恐怖がない平和な世界。それさえあれば僕は幸せになれるんだろうか』ってな。そのために魔王の残滓で生き残っている魔物を倒して認められたいんだろう?お前を魔王のように怖がる人間に!」
一言一句違わぬ僕の言葉を返されて、少し詰まる。
そうだ。
そのために僕は頑張らないといけないんだ。
僕を認めてくれない世界に、僕を認めさせるために。
これは悪魔に言われたからじゃない。
僕の選択だ。
食事を終えて片付ける。
「……今度はアズガンダル国の公爵が困っていらっしゃるらしい。行ってみようか」
「アズガンダルなんて行っても大丈夫か?お前が絶望した国じゃないか」
「それでも、困っている方がいるなら助けなければいけない」
「それが勇者様だからか?」
僕は一瞬悩んだ。
思わず縋るように腰に掛けた剣に手が伸びて力が籠る。
「……そうだ」
そう言って歩みを進める。
僕は振り返っちゃいけない。
アズガンダル行きの船に乗るために、港町へ行くことにした。
「なあ、悪魔」
「なんだい、勇者様」
こんなに殺して、悪魔は満足なんだろうか?
足元に広がる魔物の死体を一瞥して、自問自答する。
悪魔が僕に何を望んでいるのか分からない。
分からないけれど、一人旅より答えが返ってくる相手がいる分気が楽だった。
「お前の目的は、なんだ?」
「言っただろう。高潔な魂が黒く染まる様を見ているのは楽しいって」
そう言って楽しそうに僕に纏わりつき、ひょこひょこ動き回って僕の顔を覗き込む。
「なぁ、気づいているか?お前の魂が少しずつ黒くなっていくのを」
それは魔物を切る快感のことを言っているんだろうか?
強さを誇示する自尊心のことを言っているんだろうか?
「僕には分からない」
本当に分からない。
僕の魂は黒く染まっているんだろうか?
それだけ人に必要とされたいんだろうか?
ずっと、苦しく長い旅をして、人々の望むまま魔王を倒したのに、その結果が悪魔との契約だ。
「人生どうなるか分からないな」
「そうだな」
悪魔は目を細めて笑う。
僕はそれを見て笑った。
僕も壊れているんだろうか。
もう、それでもいい。
「先を急ごう」
とりあえずは港町へ。
僕と悪魔の旅は、ひとまずの目的地を決めて歩みを進めた。




