足元の花
それから何日も歩き通しでようやく城へ帰って来れたが、城は荒れていた。
「これは一体……」
「反魔王派と魔王派とが争ったんだろうさ」
僕は驚愕した。
争いを無くしたくて王になったのに、その僕が原因で争いが起きているなんて!
「みんなはどこへ……」
荒れ果てた城を探しても誰も見つからない。
みんな、こんな僕に愛想を尽かして出ていってしまったんだろうか。
誰か、答えを教えてほしい。
僕は、どうすればよかったんだ?
ふと俯いて下を見ると花が咲いていた。
初めてこの地に咲いた花だった。
それが、今はひどく残酷に見えた。
僕はそれを見ていると、無性にやるせない気持ちになって、しゃがんでしまう。
「勇者様、とりあえず休むぞ。いい加減、お前も疲れただろう」
「……だけど、みんなと話し合わない限りは」
「だから余計にだろう。食うもん食って、精力付けて向き合わなきゃいけない。今はそういう局面だろう」
悪魔の言った通りだった。
僕はゆるゆると頷き、立ちあがろうとして悪魔に制された。
「食いもんなら俺が見つけてきてやるから、お前は休んでおけ」
「いいのか?」
「いいさ、俺は悪魔だ。元人間程度のお前とは作りが違う」
僕は悪魔に甘えて瓦礫に座り、悪魔が取ってくる食料を待つことにした。
そこでふと、ここは執務室だったなと思い出して辺りを見回した。
「あった」
まだ、埃だらけで土に汚れていた僕の剣。
勇者として初めて授けられた剣。
今は何者も救えない僕だけれど、いつかまた、誰かを救えるようになりたい。
そう思って腰に差した。
慣れ親しんだものがそこにある。
それだけで安心できた。
「戻ったぞ」
しばらくすると、悪魔が果物などを持って戻ってきた。
「お前が育てていた果樹園がまだ残っていた」
「そっか」
まだ、残っているものもあるのか。
安堵とこれからの惨状の不安で、食べる手が止まる。
するとすぐに悪魔が無理矢理食べさせてきた。
「いいから食べろ。そのうち、反魔王派が来るかもしれない。戦えるようにしておけ」
「戦うって、僕はあの子達を助けたくて王になったんだ。戦うわけにはいかないよ」
「何を言っているんだ。人間側からも魔族側からも見限られているのに」
それは真実で、とても悲しいものだった。
食べ物の味がしない。
酷い虚無感が僕を襲う。
それでもなんとか食べ切ると、悪魔は満足そうに頷いた。
「よく頑張ったな」
「ああ」
みんなは、どうしているだろう。
何度も同じ考えがぐるぐると回る。
「悪魔。みんなを探しに行かないか?」
「お前を見捨てた奴らをか?だからあまちゃんなんて言われているんだ」
「言っているのは悪魔だけだろう。今度こそ、話し合えば分かり合えると思うんだ。だって、長い時間を僕達は過ごしたんだ。諦めきれない」
「この内乱はお前が原因だ。原因のお前がどちらかに見付かれば、また大きな戦いになる。お前は戦いを避けたいんだろう?」
悪魔の言葉はいつだって正しかった。
今回も正しい。
僕は返せる言葉がなくて、視線を彷徨わせる。
「……僕は」
僕は、それでも人間にも魔族にも魔物にも幸せになってほしかった。
腰の剣を掴む手に力が入る。
「僕は、何を守れるんだろう」
「それは今から探せばいいさ」
悪魔の甘言が僕を甘やかす。
「見つかるだろうか」
「見つけてみせろよ」
この応酬も、心地良くなってきた。
僕は力無く笑いながら頷く。
「そうだな。……そうだよな」
「そうと決まれば行くぞ」
悪魔は立ち上がると、歩き出した。
「行くってどこへ?」
「この争いを終わらせるためにだよ」




