裏切りの村 後編
外は雨が降っていた。
だんだんと雨足が強くなるけれど、追いかけてくる村人達を思うと立ち止まって雨宿りなんて出来ない。
特に僕は薬で頭が朦朧としている。
前へと進むだけでも精一杯だった。
「ちっ」
見兼ねた悪魔が僕を背負う。
「おい、やめろ」
「言っただろう。俺はお前に生きていて欲しいんだ。お前が忘れたとしても、契約は有効だ」
「契約?」
「……なんでもない、忘れろ」
悪魔と契約ならしているじゃないか。
左手の薬指の指輪を見る。
悪魔と同じ瞳の色をした石が嵌め込まれている、外したくても外れない僕の半身。
悪魔でも息が切れることがあるんだな、なんて思いながら、僕はいつの間にか人肌のする背中で眠りに入っていた。
「……寝たか」
悪魔が一人呟く。
「なら、誰が死んでもいいわけだよな」
そう言うと、後ろを向き追ってきた村人達に対峙する。
「馬鹿が。いくら魔族といえど、一匹でこの人数を相手にするなんて。しかも背後に魔王を背負って」
笑い声が響く。
勇者が目覚めることはない。
「気にするな。俺は悪魔であって魔族じゃない」
「……どういうことだ?」
「魔族ほど生温くないってことだよ」
ほんの数秒のことだった。
勇者が揺籠に揺られているかのような感覚でいる間に勝者は決まった。
そのまま悪魔は倒れた村人達を一瞥して歩き出した。
しばらくして、ようやく起きた勇者が目を擦る。
「やめろ。赤くなるだろ」
「悪魔……。あ!村人達は!?」
「この俺を誰だと思っている。もう、気にする必要はない。終わらせてきたさ」
悪魔が言うならそうなんだろう。
「それより、そろそろ歩けるか?」
「あ、ああ。すまない」
慌てて降りると、雨が余計に強くなってきた。
「どこかへ雨宿りをしよう」
「あの大木はどうだ?」
「いいな。行こう」
走って向かうと、その大木は少しした穴があることに気づき、そこに入ることにした。
「こんな密閉された空間に入り込んで、また村人達や魔族が襲ってきたら……」
「安心しろ。そういう気配は俺には分かる」
「そっか。悪魔はすごいな」
でも、休んでばかりではいられない。
僕が寝ている間にどれだけ逃げられたのか分からないが、早く城へと戻らないと。
焦燥感ばかりが募る。
小降りになると、外へ出た。
「そろそろ行こう」
「そうだな。反魔王派はもう城についているだろう」
その言葉に僕は歩みが早くなる。
逃げ回って走り続けて、それでも疲れてゆっくりと歩いて城へと戻る途中、息切れした頃に悪魔が声をかけてきた。
「勇者様、見てみろよ」
「え?」
「虹だ」
悪魔が指差す方を見ると、そこには見事な虹が輝いていた。
足元のぬかるみにも気を取られない。
「綺麗だ……」
思えば、景色を見て綺麗だと思わなくなったのはいつ頃だろう。
魔族のみんなに認められたいと畑を耕していたときは、大地に咲いてくれた花に感動していたのに。
僕は、上ばかりを見て下を見ていなかったんじゃないだろうか。
「気は少しは楽になったか?」
「ああ。ありがとう」
まだ惚けたように虹を見つめる僕を悪魔はただ眺めていた




