水晶と隔たれた世界
それから僕は暇があると水晶を眺めた。
あの子は本気で僕を救う気だった。
生憎と、僕は囚われのお姫様じゃない。
自ら望んで魔族や魔物を率いる王の立場になった。
そのことをあの子が知ったらどう思うか。
少し胸が痛んだけれど、事実だから仕方がない。
「まだ見ているのか?お前も飽きないな」
「悪魔」
「あいつはお前の世界の敵だ」
「僕は、あの子の世界の敵だ」
混じる事のない言葉の応酬になったのはいつからだろう。
あれからまた何の手立ても出せずに一年が経った。
「今度の勇者は、随分といい子だ」
「お前も充分いいこちゃんだったぜ」
「そうかな?」
「そうだとも。俺が天界ににいた時からずっと思っていた」
僕はその言葉に固まり、瞬いた。
「天界?えっ、お前、天界にいたのか?」
「これでも元天使だぜ?」
「嘘だろう!?」
「残念。これが本当なんだなぁ」
ウィンクしていつものように口に弧を描く。
この悪魔が、元は天使。
僕はぽかんと口を開けたまま悪魔を見詰めた。
「天使のような悪魔もいれば悪魔のような天使もいる。人間だってそうだろう?多種多様な善性、悪性で俺達は生きている」
そしてまた大仰に手を伸ばした。
「特にあいつ、神は顕著だ!」
「神のどこが」
「あいつらは『愛している』と言いながら決して手を伸ばさない。お前も実感しただろう?」
「でも、お前も以前言っていただろう?あいつは未だにお前を愛し見守っている。これからの世界の命運をお前達に賭けているのさって。神は僕達を試されている。それならそれに応えるのが僕の役目だ」
そしてちらりと水晶を一瞥する。
そこには燃える村と横たわる人間、泣いている子供が映されていた。
手をこまねいている暇はない。
早く和解をしなくては、余計な血が流れる。
もう、十分過ぎるぐらい流れている。
僕はダメな王だ。
水晶で見た人間の王は笑っていた。
民が死んで何を笑うことがあるのか。
僕が人間の世界に夢中になっていると、悪魔が問いかけた。
「俺がなぜ天界を追い出されたか、知りたいか?」
「聞いて答えてくれるのか?」
「まさか!知りたきゃ自分で考えな」
「そう言うと思った」
悪魔の言葉は数年付き合うようになったが未だに真意が分からないけれど、言いたいことと言いたくないことは分かるようになってきた。
僕の勇者と人間と神に対する思い。
そして今度の話し合い。
絶対に和解に持ち込んでみせる。
それは「価値」や「意味」を証明するためじゃない。
僕が、懸命に生きてきた証拠。
今は答えを出さなくていい。
『なぜ生きてるのか』じゃなくて、今日はこれで十分だ。
僕が決死の覚悟で考えている横で悪魔が呟いた。
「今日は生き延びてる。それでいい」




