許されなくていい
さて、どうしようか。
僕は、僕を慕ってくれるこの子達を苦しめたくない。
和平の道が絶たれたのなら、この地を離れるか戦争しかない。
けれど、せっかく不毛の地として長年捨てられた地を花々が咲き食物が育ち家畜も放牧出来るまでになった。
この地を手放すのは惜しい。
あの王ならば他の場所で生活してもまだ魔族や魔物を悪として僕達を付け狙いそうだ。
……僕も、昔は王の言うことをよく聞いていたっけ。
悪魔の甘言ならぬ王の甘言にまんまと引っかかって無用な争いをしてきてしまった。
あの子も、その犠牲者なんだろうな。
パレードでは遠くから見ることしか出来なかったが、話せば分かってくれるだろうか。
あの子なら、もしかしたら……。
「淡い期待はやめておくんだな」
「悪魔」
「話して分かる相手なら、和平を申し込んだ相手を斬り殺さずに、悠々と凱旋パレードなんて恥知らずなことしないさ」
その言葉に詰まる。
悪魔が言っていることは正しい。
でも、僕は昔出会ったあの子のことを信じたい。
「あの子は今どこへ?」
「密偵からは今度は魔王様退治を言われているそうです」
老魔族がそう告げる。
「僕を退治に?」
数年前の再来だ。
このままじゃ大規模な戦争になる。
なんとかやめさせないと。
「悪魔。お前はそう言うけれど、僕はあの子と会って話がしたい」
悪魔は面倒そうに溜息を吐いた。
「お前がそうしたきゃそうしな。俺は止めはしないさ」
「ありがとう。お前もついてきてくれるか?」
「もちろん。俺の勇者様」
恭しく、わざとらしく頭を下げる悪魔。
「しかし、話すってどうやって話し合いに持ち込むんですか?和平の手紙すら使者ごと無かったことにされるんですよ?」
魔族の一人が疑問を口にした。
その疑問はもっともだった。
僕もそれを考えると頭が痛い。
「あの子に罪はないと信じたい。王に言われるがまま剣を振るったものだと思いたい。しかし、実際死人が出た。……僕も昔はそうだった」
魔族と魔物に沈黙が落ちる。
みんな、昔のことを思い出したんだろう。
そうだ。今は暖かく迎え入れているけど僕は彼等の王を殺した。
罪人が王になって申し訳なさとそれでも迎え入れたみんなのために尽くしたい。
「なあ、勇者様。お前の理想ってなんだ?」
「え?」
「救われたいのはお前自身じゃないのか?」
「……それは、そうかもしれない」
悪魔の言葉に小さく頷き、僕は改めてみんなに謝罪した。
「あの時は、本当に申し訳ないことをした。謝罪して済むことではないと分かっているが、許してほしいとも言えない。ただ、今はみんなを守りたいと思っている。力を貸してくれ」
頼む、と力無く頭を下げると、老魔族が僕の肩を叩いて上を向かせた。
「魔王様。儂達は魔王様が儂達と共に居ると覚悟を決めてくださった時から信じてついて行こうってこっちも覚悟を決めてるんす。だから、顔を上げて儂達を導いてくださいませ」
「みんな……」
胸が熱くなった。
勇者になった時より、魔王を退治した時より、凱旋パレードの時より、何より心が震えた。
「ありがとう。みんながいてくれて、僕は良かったよ」
悪魔がそっぽを向いて小さく舌打ちした。
「演劇かよ。喜劇を見る趣味はねぇんだけどな」
そう言って、またふらふらとどこかへ出掛けた。
喜劇ならいいじゃないか。
悲劇よりよっぽど。
「ああ、魔王様。悪魔のことを悪く思わないでくださいね。あれでも、魔王様と同じく先代の魔王様の月命日毎に花を供えてくださるんですよ。魔王様が去ったあとにこっそりと」
老魔族が朗らかに言った。
「えっ」
「そうそう。意外と面倒見がいいんですよ。迷子の子供の親を探したり」
「……知らなかった」
「我々も口止めされていましたからなぁ。どうか嫌わないでください」
「嫌ってなんかいませんよ」
僕は張り詰めていた空気が抜けることを感じた。
あの悪魔が。
僕は知らずに笑っていた。
悪魔と一緒なら、あの子との話し合いもなんとかなりそうだ。
そんなことを楽観的に考えていた。
悪魔は僕を写した鏡。
そんなことを思っていたことも忘れて。




