凱旋パレード
「アズガンダルへ入れないなら、どうしたものか」
「簡単さ。俺が変化の魔法をかけてやる」
悪魔があっさりと言った。
これまで長い付き合いだが、僕の鏡として僕に甘言を言ったり突き放してきた悪魔が自分から手を貸すのは初めてだった。
「いいのか?」
「ああ!もちろん。俺とお前の仲だろう」
そう言うと、何かを呟き僕の体が光に包まれた。
「ほうら。これで反逆の勇者様じゃない、単なる旅人さ」
自分の顔を触ってみるも実感がない。
けれど、骨格から違っているのは感じられた。
「どうだい?満足かい?」
「ああ……。ありがとう」
どこから取り出したのか鏡を手渡されて見た自分の姿は見知らぬものだった。
「これでアズガンダルへ入れるな」
「そうだな。凱旋パレードが始まっちまう。早く行こうぜ」
「もちろん」
そうして、僕達は門番が構える外壁へと向かった。
「止まれ。何用でアズガンダルへ来た?」
門番に止められる。
「勇者様の凱旋パレードを拝見しに来ました」
恭しく頭を下げると、門番が微笑んだ。
「そうか!先代と違い、今代の勇者様は素晴らしい方だ。その威光を目に焼き付けるがいい」
「はい」
……やっぱり、僕の知っているあの子じゃないんだ。
そう思うと寂しくなったけれど、無事に入国出来たのは良かった。
「ありがとうな。悪魔」
「お安いご用さ」
そして小さく呟いた言葉は凱旋パレードを探している僕には聞こえなかった。
「その方が、お前の絶望を間近で見れるだろう」
「何か言ったか?」
「なんにも」
にこりと笑う悪魔に違和感を覚えながらも、歓声に気を取られそれ以上追求はしなかった。
「凱旋パレードはあっちの方みたいだ。行くぞ」
「ああ」
足早に人の波をかき分けて前へ進むが、前へ出過ぎたと思い急いで反対方向へ進み路地裏に隠れるように立った。
僕が数年前に乗ったものと同じ馬車に乗り、群衆に手を振るあの子は、彼は勇者になりたかっただけだった。
そう思えた。
そのまま即位式があるというので民衆の波に乗って王城の前までやってきた。
王が国の宝刀を渡す儀式だ。
僕もやった。
その後はお飾りの剣は返されて、匠の一品が正式に渡される。
僕の剣もそうだ。
思わず腰の剣を確かめる。
即位式の最後、群衆が叫ぶ。
「勇者様万歳!」
民衆から離れて路地裏に戻る。
「……これで、世界は救われない」
「ああ、そうだな。数年前のやり直しだ」
「そんなことはさせない!」
悪魔を見遣ると、見返される。
ああ。悪魔はどこまでいっても僕の鏡だ。
悪魔の両目に映る僕は、人類の敵だった。
勇者の誕生を受け入れられない、魔族の王。
それが今の僕だ。
神の御言葉なんか聞けるはずがない。
僕が項垂れると、悪魔の甘言が耳を突く。
「凱旋パレード、すごかったなぁ。贅の限りを尽くして。あの金があれば救われた命がどれだけあるだろう」
僕の思ったことを、そのまま口にする。
「悪魔。僕は、あの子を止めたい」
「そんなの、すればいいじゃないか」
「和平も断られたのに?そもそも、あの子は和平を望んでいたんじゃないのか?」
「王の傀儡を選んだ。それだけだろ」
その言葉が何より刺さった。
あの無垢な子供が、利用されるのが許せなかった。
いや、もう無垢ではないかもしれない。
「なあ、悪魔」
「なんだい、勇者様」
「前の魔王も、こんな気持ちだったのかな」
「さてね。城に帰ってから魔族に聞いてみな」
僕は寄りかかっていた壁から身を離し、城に帰るために馬を置いていた場所まで戻る。
「早く帰ろう」
「勇者様の仰せのままに」
悪魔の大仰な皮肉にももう慣れた。
「戦争になるかな」
珍しく悪魔が自発的に言う。
「そうはさせない」
僕が決意を込めて返す。
必ず、あの時の自分の愚行をあの子にさせてはならない。
そのためには僕がどうなろうと構わない。
また馬を走らせた。
三日目に辿り着いた自分の城では、魔族や魔物達が暖かく出迎えてくれた。
「魔王様が無事に帰還なされたぞー!」
「よかった、よかった。人間の世界で何をされるかと心配していたんですよぅ」
「そのまま寝返るかと思ったぜ」
「お前、酒の席で魔王様が心配だからやっぱりついていけばよかったなんて言ってたじゃねぇか」
「なっ、オレはそんなこと……!」
みんな賑やかで、騒がしくて、あの凱旋パレードを思い出したけれど、僕はこちらの方がよほど温かみがあると感じた。
「みんな、ただいま」




