新勇者
魔族と魔物には、率いる王が必要だ。
人間にもそれは言える。
だけど、勇者はどうだろう?
「勇者とは、世界に必要とされ続けなければならない存在なのか?」
不意に出た疑問が口をつく。
「さぁてね。それは勇者様が考えることじゃないか?」
悪魔は相変わらず答えをくれない。
ただ、僕を写す鏡であるだけ。
悪魔を自身の鏡と感じる時点で僕は堕ち切っているのだろう。
僕は考えた末に答えた。
「勇者という役割は、人を救うためのものじゃない」
「じゃあ、魔族を救うためかい?」
「いいや、弱者を救うためだ」
そうだ。
僕は最初からそのために剣を取った。
蹂躙される故郷の村を助けたかった。
この腕の中で息を引き取る母みたいな人をもう出したくなかった。
それは、人も魔族も魔物も同じだった。
僕はみんなを助けたい。
「僕は強欲だろうか?」
「いいんじゃないかい?強欲だって人間の欲望さ」
悪魔は笑う。
「魔王様!大変です!」
人間の王に和平の申し出をしようと手紙を書いているところにいつもの老魔族が現れた。
息を切らして膝をつく。
「大丈夫か?一体何があった?」
僕が尋ねると、魔族は震えながら搾り出すような声で言った。
「新しい勇者が決まりました」
「その話なら知っているさ、もう……少し前の出来事を何を今更」
その少しは数年前だったと思い出し、改めて自分が歳を取らない、人間ではないものに変わってしまったことに動揺した。
「それが、その勇者が魔王様と和平を結びたいと申しているらしいんです!」
「なんだって!?人間側から申し出てくれるならちょうどいいじゃないか。その勇者はきっといいやつなんだろうな」
久々に心からの笑顔で本心からそう言った。
「本当に、そうなるといいなぁ」
悪魔が僕の肩に腕を置いてニヤニヤ笑う。
「そうなるようにするに決まっているだろう!」
「まったく、勇者様ってのは傀儡になる素質があるやつしかなれないのかねぇ」
悪魔は笑う。
余計なお世話だ。
しかし、それもそうだ。
新しい勇者があの王の思惑により申し出たとしたら、何かある。
「少し調べないとな」
「もう手配しております」
魔族が言う。
「随分と手回しがいいな」
「我々も、もう争いで血を流したくはないのです」
その言葉に胸が痛んだ。
きっと、誰よりも魔族や魔物を殺してきたのは僕だから。
「そう、だな……。次の停戦こそ、うまくいくように取り計らおう」
新しい勇者が現れたって聞いた時、自身が不要とされたことへの憤りと虚無感、新しい勇者がいいように扱われている善人なことへの危機感。
それを感知した時に僕がなんとかしなきゃって思った。
それから僕も新しい勇者については調べていた。
総合すると、新しい勇者はあの時の子供だということが分かった。
神よ。
運命の悪戯では済まされないこともあるんですよ。
僕はもう聞こえなくなった神の御言葉に縋るように心の中で呟いた。
「神なんて、縋ったところで無駄だろうよ。だってお前は見捨てられたんだからなぁ」
悪魔の言葉は甘言だけではない。
僕の痛いところも突いてくる。
僕を写す鏡であるだけ。
それだけなんだ。
何故だかそれが無性に悲しくて寂しかった。
僕は、結局は魔族を斬り、人間を斬り、神に見捨てられ、勇者から魔王と呼ばれて側にいるのは甘言を吐く、嘘をつかない悪魔だけ。
僕は、なんでこうなってしまったんだろう。
ただ、正義を求めただけなのに。
新しい勇者には、こんなことになってほしくない。
いや、僕は自分の選択に後悔なんてしていないのだけれど。
けれど、結果として神に見捨てられた。
「なあ、悪魔。お前はいつまで僕の側にいるんだ?」
「そんな迷子の子供のような顔をするな。俺は死ぬまで側にいるからよ」
そんな言葉に救われるほど、僕はいつから弱くなったんだろうか。




