第3話「六人、揃う」
舞台の左から、橙色の、追い光が、ゆっくり、落ちてきた。
SASA先生が、登場した。
サングラスに、大げさな、衣装。
その影が、舞台の、まんなかへ、歩いていく。
五万人が、一瞬で、爆発する。
「SASAさん――!!!!」
舞台に、残った五人が、一列に、並ぶ。
合わせるとも、やれやれとも、つかない顔で。
でも、目の奥に、笑いが、隠せない。
SASA先生が、ゆっくり、サングラスを、外す。
客席では、もう、泣いている者も、いる。
本人も、ひとつ、笑った。
ようやく、ここまで、来た、というように。
片手を、あげる。
ふかく、息を、吸う。
「みんな――最後に、一回――せーの――!」
五万人が、いっせいに、息を、止めた。
六人が、客席に、むかって、ありったけで――
「OEOEO————!」
ブルースが、ぐっと、踏みこむ。
舞台前から、火が、噴き出した、その瞬間。
六人が、同時に、跳ぶ。
紙テープが、噴き出し、体が、宙で、ひとつに、合わさる。
五万の、観客が、全身の力で、叫び返す。
「SA!SA!」
照明が、目を、刺すほど、白い。
音の波が、浮動台の、底を、かすかに、ふるわせる。
製作陣の、電撃サプライズが――起動した。
腕の、電極パッチから、おなじみの、しびれ。
六人が、同時に、びくっと、した。
悲鳴が、ほとんど、同時に、はじける。
片膝を、つく者も、いて。
客席が、どっと、笑いに、なった。
観客の、いちばん、好きな、しかけの、ひとつ。
花火が、つづく。
金。銀。赤。
ドームの下で、一層ずつ、はじけていく。
六十二公演。
これが、六人で、いっしょに、くぐった、最後の関門。
それから。
電撃は、もう、止まったはずだった。
ブルースが、うつむいて、腕を、見る。
プログラム表示――停電。
すべて、正常。
なのに、体の、しびれは、消えていない。
まだ、ある。
顔を、あげる。
何も、言わない。
花火は、まだ、はじけている。
観客は、まだ、歓声を、あげている。
でも、ブルースは、もう、客席を、見ていなかった。
蒼鷹の、肩が、かすかに、こわばる。
演技の、こわばりじゃ、ない。
本当に、こわばった。
三人ぶん、離れた距離で、二人が、目を、合わせた。
玄墨が、自分の、腕に、首を、かたむける。
電流が、まだ、ある。
競技場の、わきの、中央卓へ、目を、やる。
その目は、もう、「ただちに公演中止」の、合図を、待っていた。
だが、来ない。
玄墨は、頭の中で、ありとあらゆる、可能性を、たどる。
ひとつも、筋が、通らない。
イヤホンに、雑音が、混じりはじめる。
照明が、ちらついた。
もう、一度。
舞台ぜんぶが、ゆっくり、制御を、失っていくように。
玄墨が、低く。
「プログラムは……正常……?」
舞台前の、小さな画面を、見る。
警告の、文字が、ない!
誰も、気づいていない?
ようやく、眉が、寄った。
「……おかしい」
曜吾郎の、手が、握りしめられた。
智也が、重心を、踏みしめる。
体が、頭より、さきに、何かを、察したように。
瑛子が、ゆっくり、顔を、あげる。
舞台の、真上へ、目を、やった。
六人が。
同時に、感じとった。
客席の、世界は。
まったく、知らない。
花火は、まだ、はじけている。
観客は、まだ、歓声を、あげている。
浮動台の、下から、火が、一層ずつ、立ちのぼる。
でも、六人。
もう、誰ひとり、笑っていない。
舞台の上だけが。
そっと。
ブルースが、声を、落とす。
「……蒼鷹」
蒼鷹は、もう、その方を、見ていた。
二本の指を、宙で、低く、おさえて。
軽く、ひとつ、点いた。
電光が、いちばん、明るい、その一秒。
蒼鷹が、思わず、顔を、あげる。
左へ。
右へ。
まだ、いる。
なのに、どうしてか。
胸に、ふいに、ひとつの、思いが、浮かんだ――
「このあと、見つからなく、なるかもしれない」
浮動台の、真上の、空気に。
青白い、光が、ひとつ。
ふいに、一段、明るくなった。
花火じゃ、ない。
レーザーでも、ない。
誰かが、設計した、ものでも、ない。
玄墨が、もう一度、プログラムの画面を、見おろす。
停電。
プログラムは、正常。
異常は、どこにも、見えない。
なのに、あの光は。
まだ、明るくなっていく。
観客の、歓声まで、覆いはじめる、ほどに。
玄墨が、ついに、口を、開いた。
「この電流は――」
花火の、最後の一発が、その言葉と、同時に、はじけた。
蒼鷹が、必死で、マイクを、かかげる。
五万人に、むかって。
最後の力で、叫んだ。
「HEXA――!完璧――!」
*
六人。
消えた。
競技場が、三秒、静まった。
それから、どこかの、隅から、拍手が、始まる。
だんだん、大きく。
最後には、ドームぜんたいを、呑みこんだ。
五万の、人。
これが、仕組まれた、結末だと、思っている。
舞台裏。
山田さんが、通路から、曲がってくる。
空っぽの、浮動台を、見る。
中央卓の、画面が、ぜんぶ、赤に、なっているのを、見る。
手には、まだ、機材リストを、持ったまま。
そこに、立った。
「……あれ?」
*
蔵書閣の、奥。
誰も、いない。
ただ、燭の火が、ゆれている。
書案に、横たわった、一冊の、古い書物。
ひとりでに、頁を、めくる。
その、一頁で、止まった。
そこには、ただ、一行。
六星、再臨。
次の、頁。
白紙。
燭の火。
消えた。
――第四話〈磐石国〉へ――




