第18話「みんな、いる」
飯を食べ終え、火を囲んで、蒼鷹が、持ちかけた――
「ひとつ、遊びをしないか。みんなで、ものをひとつ言う。六人、同じなら、勝ち」
「何を言うんだ?」
蒼鷹が、すこし考えて。
「どうせ、おたがいの名前も知らないんだ。なら――自分を、いちばん表してると思うものを、ひとつ」
六人は、それぞれ、すこし考えて、そして、同時に、言った――
玄墨。「書」
瑛子。「光」
蒼鷹。「扇」
智也。「刀」
曜吾郎。「水」
ブルース。「……飯」
三秒、沈黙。
五人が、いっせいに、ブルースを見た。
ブルースは、ひどく真剣に。
「飯は、大事だぞ」
智也が、ぷっと噴き出した。
ブルース。「ほんとだって! 水で炊いた飯、めちゃくちゃうまいんだ!」
曜吾郎は、手を止めずに。
「……ありがとう」
玄墨が、長いこと、黙って――
「……私も、水で炊いた飯は、うまいと思う」
*
蒼鷹。「まあいい、もう一回。今度は――もし今日が最後の日なら、何がいちばん、したい?」
六人は、それぞれ、すこし考えて――
曜吾郎をのぞく、五人が、声をそろえた。
「もう一度、水で炊いた飯を、食う」
それから、いたずらみたいな笑い声が、いっせいに、上がった。
曜吾郎が、声を張る。
「どれだけ飯が好きなんだ――足りなかったか!」
六人は、たがいを見て、まだ、笑っている。
曜吾郎は、笑いすぎて、力なく、この五人を、見やった。
ひとつ、ため息をつく。
立ち上がり、火のほうへ歩いて、薪を、一本、くべた。
*
ブルースが、すぐに寄ってきて、となりに、しゃがむ。
「なあ、もう一回」
曜吾郎。「いやだ」
「もう一回だけ――」
「いやだ」
「最後の一回――」
曜吾郎が、ちらと、見た。
その目に、ブルースは、すっと、引っ込んだ。
智也が、わきで、忍び笑い。
すると蒼鷹が、振り向いた。
「じゃあ、お前。ひとつだけ持って帰れるなら、何を持って帰る?」
智也は、考えもせず。
「刀」
「そりゃそうだ」ブルースが言う。
「そりゃそうだ!」みなが、続けた。
蒼鷹。「俺は、扇だな」
「そりゃそうだ!」
玄墨が、長いこと、黙った。
それから、ひどく真剣に。
「書」
「そりゃそうだ!」
瑛子が、すこし考えて。
「光」
ブルース。「光は、持っていけないだろ」
瑛子。「持っていける」
三秒、沈黙。
誰も、どう返していいか、わからない。
だが、誰も、まちがいだとは、言えなかった。
ブルースが、曜吾郎を向いた。
「お前は?」
曜吾郎は、手を止めず、火に、薪をくべながら。
「わからない」
すこし、間。
「……水、かな」
「水だって、持っていけないだろ」智也が言う。
曜吾郎。「持っていける」
ブルースが、瑛子と曜吾郎を指さして、それから、自分を指した。
「お前ら二人、グルだろ」
瑛子と曜吾郎が、同時に、ブルースを見た。
それから、同時に、火のほうへ、向き直った。
ブルース。「……」
蒼鷹が、こめかみを押さえ、笑いながら、智也に、寄りかかった。
智也は、まるで気にせず、片手で、蒼鷹を押しのける。
蒼鷹が、火に、倒れこみかけた。
「あぶな――!」
「わかってるって!」
ひとしきり、騒ぎになる。
みなが、また、座りなおすと、笑い声も、ゆっくり、おさまっていった。
火が、あたたかい。
谷の口から、山風が、吹きこんでくる。
草の葉の匂いが、まじっている。
六人は、そうして、座っていた。
誰も、口を開かない。
口を、開く必要も、ない。
蒼鷹が、左を、ひとめ。右を、ひとめ。
一。二。三。四。五。六。
みんな、いる。
摺扇を、掌で、ぱん、と、軽く打った。
なぜかは、うまく言えない。
ただ、この一打ちは、打つものだ、と思った。
ブルースは、うつむいて、あの六本の線を、感じていた。
今朝より、すこし、はっきりしている。
これが何なのか、うまく言えない。
ただ、この感じを、覚えている。
ここ数日の、記憶ではない。
ここより、もっと深いところで、覚えている。
火が、燃えつづけている。
――第十九話〈野営の谷〉へ――




