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神剣のプロトコル ~底辺まで落ちた元S級最強剣士の俺が、錬金術師少女に『武器の臨床評価』とかやらされ、結果的に世界を救うまで~  作者: 深井立花 数白
第3章:転移術師の犯罪学

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第24話:Critical Process[【罪引き】ライヒアルトVS【神剣】リガル]

 ライヒアルトの、初めて見る素顔。そして、初めて見る『青い肌』。


「お前……その肌の色、一体……」


 思わず俺は戦意も忘れ、素で尋ねてしまった。


「…………自分は……」


 肌より更に濃い青色の目を逸らすライヒアルト。

 しかし、彼より先にバールーフが答えた。


「ライヒアルト・エルゴーは異世界人だ」

「異世界、人……?」

「この世界とは違う世界の出身だということだ。私が連れてきた」

「な、なんのために……」


 バールーフは、ふむ、と言いつつ姿勢を直し、語り始めた。


 かつてライヒアルトは、異世界でどうしようもない事情があり、所属していた軍の味方を殺してしまったこと。

 そして捕まり、処刑が執行されたこと。

 しかし彼のような、外的要因によって罪を成した人物を処刑するような状況を問題視していたバールーフは、異世界転移という形でライヒアルトを助けたこと。

 バールーフは、ライヒアルトと同じような境遇に陥った人物を匿うために、ライヒアルトに協力を持ちかけたこと。

 ライヒアルトは、命を救ってもらった礼と、自分の罪を客観的に見つめなおすためにバールーフへの協力を決意したこと。


 それを聞いた俺は、やっと納得がいった。


「そうか、ライヒアルト……お前も、シュラーたちと同じような目に遭ってたんだな……」

「そう……です」

「それで、なんでバールーフの名誉にそんなにこだわる?」

「言ったはずです。あなたには分からないと」


 ライヒアルトは、俺から目を逸らしたまま、そう言った。

 俺はなんだか、『どうせ』と突き放されている感じがして腹が立った。


「それじゃ、いつまでたっても分からないものが分からないままだろうが!」

「ではあなたは……ッ!!」


 その瞬間、今までで一番大きな殺気を感じ、俺は反射的に収納錬装具から【仮面剣ユング】を取り出し、防御した。


 【仮面剣】の光の刃と、重力を纏ったハルバードがぶつかりあい、火花が散る。


「あなたは今までに、歩み寄ったことがありますか!? 周りの環境に心を押しつぶされて犯罪に至ったもの達の気持ちに!!」

「……ッ!!」


 一撃ごとにハルバードが重くなる。ライヒアルトの感情が宿っているかのようだ。受けるごとに、とてつもない轟音と衝撃に襲われる。


「あなたには、あるんですか!? 自分ではどうしようもないものに、全ての能動性を奪われたことが!!」


 ない。なかった。


「あなたに分かりますか!? そんなとき、手を差し伸べられた時の気持ちが!! 自分が匿った犯罪者も、みな言うんですよ!! 『どうしたらいいか、分からなかった』って!! 『自分たちを理解してくれようとして、ありがとう』って!!」

「………………」


 俺には、そんな経験はない。言い返せない。


「自分たちが匿った犯罪者はみな、残酷な犯罪者などではありませんでした! 普通の人となにも変わりませんでした! ただ環境が悪かっただけなのです! それを、罪を犯したと言って処刑したりする方が乱暴だと思いませんか!?」


 それは、俺も思った。だから、メイの万引きを見逃した。でも。


「だが、そんなことをしたら、犯罪者は自分の罪と向き合えないままだ。他の奴らにとってもそうだ。なんでこんな犯罪がおこったのか、誰も、気にも留めずに流れ去ってしまう。でも、犯罪者の心の中にはずっと刺さっているはずだ。『自分は罪を犯した』って棘が。お前にも、あるんだろ?」

「……っ! 自分は……」


 一瞬、ライヒアルトの動きが鈍る。

 俺は振り下ろされたハルバードを思い切り弾き返した。


「ファシエはなんていったと思う? アイツはな、『自分は裁かれて良かった。そうして初めて自分の弱さと向き合えた』って、そう言ったんだよ」

「……彼女が、そんなことを……!」


 ライヒアルトの攻撃が止む。


「お前は罰せられることから逃れて、それで楽になったか?」

「それは……」


 うつむくライヒアルト。


「ライヒアルト。お前がずっと引きずって来たものに、そろそろ向き合ってみたらどうだ? そうでないと……お前は『良き原因』にはなれない」


 俺は懸命に訴えたつもりだが、それでもライヒアルトは引き下がらない。


「くっ……! それでも、自分が間違っていても、どれだけ重いものを引きずることになっても、自分は退くわけにはいきません……!」


 とうてい耐えられないものに耐えるように、歯を食いしばり、ハルバードを構えなおすライヒアルト。


「ライヒアルト……お前はなんでそこまで、バールーフを……」


 ライヒアルトの目が俺を真正面からとらえる。その目には、輝きが見える。覚悟、涙、恩義、懐疑。様々なものが宿った輝きだった。


「言ったはずです。貴方には分からないでしょう!? どうしようもない過ちを犯したときに……それでも自分を救い上げてくれた……その手の温かさを!!」


 ライヒアルトのハルバードに、重力の魔術が凝縮されていくのが分かる。


「その手を冷たい非難の雨にさらすことは、自分には、どうしても、受け入れられないのです!!」


 そして俺とライヒアルトを囲うように、四方に重力の魔法陣が並んだ。

 俺とライヒアルトの間に、一直線に重力の道がつながったのが分かった。


「リガル殿……いざ、尋常に!!」


 最早避ける道も、退く道もない。一切の小細工なしで、ライヒアルトの全てを込めた一撃が来るだろう。


「この頑固野郎が……!! なら、こっちもはっきりと突き付けてやる!!」


 俺はこちらも全力で迎え撃つことを決めた。

 精神を極限まで研ぎ澄ます。

 【仮面剣】の光の刃の輝きが増していく。


「その考え、その生き方を変えられないようなら……ライヒアルト、お前は――!!」


 ライヒアルトが吼えた。

 四方の魔法陣からの何重もの引力、斥力を受け、雷光を超えるかという速度で迫る。


 振り下ろされるハルバード。

 重力の魔術で輝くそれは、ライヒアルトにのしかかる悲壮な覚悟の宿ったものか。


 しかしその向こうに、誰かの涙が見えた気がした。


 俺は、その涙ごとライヒアルトを斬り伏せた。


「――不合格(フェイル)だ、ってな」

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