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神剣のプロトコル ~底辺まで落ちた元S級最強剣士の俺が、錬金術師少女に『武器の臨床評価』とかやらされ、結果的に世界を救うまで~  作者: 深井立花 数白
第3章:転移術師の犯罪学

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Results1[罪の揺り籠、人心]

 俺の一撃を受け、崩れ落ちるライヒアルト。

 途端に、俺たちを浮かせていた重力魔術がなくなる。


 俺は大丈夫でも、ライヒアルトが落下する。

 しかしその身体が、何かの光に柔らかく受け止められた。

 バールーフがライヒアルトの方に左手を向けている。そのせいか。


 そして、原形が跡形もなくなった床に寝かせられたライヒアルト。

 それでも、コイツはバールーフに謝罪していた。


「わ、我が主よ、申し訳……ありません……」


 バールーフは、その様を、相変わらず感情の読めない顔で見ている。

 しかし、ゆっくりと椅子から立ち上がると、倒れたライヒアルトに近づき、俺が付けた傷に手をかざす。


 その手からは先ほどと同じ、柔らかい光が発せられている。魔術じゃない、なにか別の力だ。それでもライヒアルトの傷を治しているのだろう。


「ライヒアルト・エルゴー、良いのだ」

「良く……ありません……自分は、到底納得など……」


 苦しそうにしながらも訴えるライヒアルト。しかし、バールーフはゆっくりと首を横に振る。


「ライヒアルト・エルゴー。私は貴公に謝罪せねばなるまい。貴公に私の活動への協力を求めた際、貴公は確かに『自分の罪を客観的に見つめなおすために』私に協力するといった。私は、貴公が貴公と同じような境遇の人物を観察することで、貴公の『良き原因』になればと思っていた。しかし……」

「主よ! 違うのです! 自分が今まで自分の罪と向き合わなかったのは、自分の内的要因が積み重なった結果であり、主が『悪しき原因』というわけでは、断じて……!!」


 ライヒアルトが、バールーフの言葉を遮るように叫んだ。まるで、バールーフの言葉の続きを恐れたかのように。


「いや、犯罪者を救い、彼らの感謝の言葉を聞いたことで、貴公は『これでいいんだ』と思い、貴公が自身の罪と向き合う機会を潰してしまった……私は、浅はかだった。改めて謝罪する、ライヒアルト・エルゴー。済まなかった」


 バールーフはライヒアルトに頭を下げた。そして、


「ライヒアルト・エルゴー。シュラー・エウケイロスを引き渡そう。そして今後、貴公は私の活動に協力はさせない。貴公の『良き原因』は私のところにはないようだ」

「――ッ! …………承知、いたしました、我が主……いえ、バールーフ・アヴィティウス殿……」


 バールーフは命じ、ライヒアルトは涙をこらえてそれに従った。

 そしてバールーフは俺に向き直る。


「しかしだ、リガル・フェイル。サルティヴ王国を始め、各国の司法制度には明らかな欠損がある。それを見直すことが条件だ」

「分かりました。それに関しては、俺も同感です。『シリウス』として、俺も世界に訴えます」


 自分で言うのもなんだが、俺は【SABER(セイバー)】の中では民衆に親しまれている方だとおもう。超然的すぎるバールーフだけが言うより、みんなも聞き入れやすいだろう。


「うむ。そして私は、私がやってきたことを世間に発表する。各国が司法制度を改めるならば、私は犯罪者を匿う活動をやめよう」

「司法制度を改めない国に関しては、今まで通りの活動で干渉するんですか?」

「もちろんだ。裁かれるべきでない人物が裁かれるようになっては意味がない」

「そうですか……まあ、妥当なとこですかね」


 こうして児童連続誘拐事件は幕を下ろしたが、言うまでもなく、世間にとってはここからが問題だった。


    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 その翌日、バールーフは自分の映像を各国の主要都市に転移させ、人々に自分の活動を告白した。


 彼がライヒアルトとともにサルティヴ王国を騒がせていた児童並びにエレオス殿下誘拐事件の犯人を匿っていたこと。

 それは外的要因によって自己の能動性を押しつぶされ、受動的に犯罪に至ったものを救う司法制度の欠陥から犯罪者を守るためであったこと。

 今回の事件以前にも、ライヒアルトと協力し、犯罪者を匿ってきたこと。

 しかし、各国が司法制度を見直すならば、これらの活動を国ごとに停止してもよいと考えていること。


 そして、その話を俺が引き継ぐ。


「今回、我もバールーフと話し合った。我は言った。犯罪者を隔離してしまうと、犯罪者が犯罪を行うに至った『悪しき原因』が分からなくなる。それを明らかにし、皆で考えるためにも、犯罪者はしっかりと裁きの場に出すべきなのではないだろうか、と」


 そして再び話し手はバールーフに戻る。


「私は各国に問う。私の行動を容認するか、シリウス・カリバーの言うように、犯罪者が犯罪を行うに至った理由を考慮するように司法制度を見直すか。それぞれの国で決めるといい。何の行動もおこさないようなら、私の今までの行動を、これからも容認するものとみなす」


    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 この放送を、俺自身もシデロの街の噴水広場で見ていた。

 工房のみんなは「犯罪者が犯罪を行うに至った原因を知るために、司法制度を見直す」方向で納得してくれた(いや、プリシラがホントに理解していたかどうかは怪しいが)。だから俺たちは落ち着いたものだったが、市民のみんなには頭をぶん殴られるような衝撃だったらしい。


「犯罪者をかくまっていたなんて、とんでもない! 霊性ランクはどうなっているんだ!?」

「でもさ、ヤバいヤツを隔離してくれたのは良いことなんじゃねーの?」

「いやまて、犯罪者にも人権はあるはずじゃないか! それを無理矢理隔離するなんて……!」

「でもヤバいヤツは処刑するじゃん。そいつには人権なくね? 隔離したほうがそいつのためにもなるじゃん」

「しかし、司法を無視して私刑にかけているようなものじゃないか! そんなヤツを【SABER】に入れていていいのか……?」

「しかし、彼らが霊性S級なのは事実だろう。霊性ランクをごまかす手段なんてないはずだ」

「ああ。そこは、冒険者ギルドを信じよう。ギルドマスターは切れ者だし、信頼のおける人だ。第一、バールーフが人類に対して何かしようとしていれば、とうに我々は滅んでいる。また、彼が数えきれない人々を救ってきたのもまた事実だ。ひとまず、彼は人類の味方とみていいんじゃないか?」

「それでも、アタシはなんかこわいよ……ライヒアルトも、何考えてるか分からないし……」

「まあ、落ち着け。彼の主張は、ひとまず今の司法制度に対する問いかけだ。ひとまず王家の判断を待とう」

「なあ、王家がバールーフの要求を飲むとして、その、犯罪を行うに至った『悪しき原因』?とかいうのはどうやって考えりゃいいんだ?」

「あ、いや、それは……」


 人々の話し合いは終わることがなかった。


 そして、バールーフが発表したことはもうひとつあった。今回の児童連続誘拐事件の犯人は、息子の病死について周囲からひどく責め立てられ、精神を病んで犯行に及んだということ。また、バールーフたちがその犯人を匿ったことで模倣犯の存在に気付くのが遅れ、結果模倣犯に追い詰められた被害者家族が、罪のない女性を襲撃するという事態に発展したことを告げた。


 どうか、犯罪が起こった『悪しき原因』を考え、自分がそれにならないようにしてほしいと最後にバールーフは語り、通信を終えた。

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